04
きっかりと定時になって文也は会社を出た。酷く顔色が悪い。会社を出る前に寄ったトイレの鏡に映る自分の顔は、体調不良の時と同じ顔色をしていた。
夏の夕方である。外はまだ暑く、明るかった。家に着いたとしても、さっさと寝るだけで、結局は日付を跨いだ辺りで起きてゲームをするだけだろう。
そう思った文也は、酒でも飲もうと思った。パワプロも魅力的だが、ゲームをしている最中に寝てしまうだろう。
スーパーで酒を買って、家で飲もうかと思ったが、それも止めた。中途半端に飲んでも、パタッと寝て、すぐに起きてしまうだけだ。
そう考えると、会社に出る時間は早過ぎた。せめてあの二時間は残業すればよかった。とはいっても、もう後の祭りである。
さあ、どうしたものか。
会社の近くで飲むのは、気が引けた。他の社員だって、定時で帰っている人間はいるはずなのに、どこか定時上りに後ろめたさを感じている自分がいた。別に自分の仕事さえしていれば、定時で帰ってもいいはずなのに。むしろ、無駄な残業代を稼がないだけ会社にとっては有意のはずである。
そう思いながらも、文也の足は会社から遠ざかっている。どこか適当な店を探しているが、なかなかお眼鏡にかなう店が見当たらない。
「どこかで見たことのある人だ」
そう。それは偶然だった。
たまたま飲み屋を探して歩き回っていたところに、その女は現れた。
文也の目の前に。
「西野、さん」
紛れもなく、西野だった。
「覚えていてくれたんだ。三人目の岩崎さん」
忘れたくとも、忘れられるはずがなかった。あれだけ強烈なインパクトを残した女である。
「まあ……」
「ところで、三人目の岩崎さんは今何を?」
「いや、普通に仕事を終えたので、どこかの店で一杯やろうかと」
しまったと、文也は言い終えて後悔した。外回りにでも出ていると言えばよかった。
「そう。あたしも今終わったところ。で、一緒にどう? もちろん三人目の岩崎さんがよければね」
誘われてしまった。文也は西野を見た。
改めて西野をよく見ると、身長はさほど高くなく、平均的だった。特にこれといった特徴は見られないが、合コンの時と変わっていたのは髪を束ねていることぐらいだ。
そう。西野は見た目こそ普通の女だった。少なくとも、中身ほど変わっていない。よくよく考えれば、一人で飲むのは味気なかった。たまには女と飲むのも悪くはないだろう。おまけに向こうから誘って来ているのだ。
“あわよくば”――文也の中で
邪な考えが生まれる。変わり者かもしれないが、西野だって女だ。セックスは出来るはずである。
寝不足だった頭が急に冴えるのを文也は感じた。ランナーズハイに近い状態だ。
「ええ。もちろん。ご一緒させていただきます」