01
土日を挟んで月曜日を迎えた。文也は寝不足のまま職場へと向かう。
結局――金曜日は徹夜をしてしまった。小久保に打たれたホームランが後を引いたのかどうか分からなかったが、とにかく寝付けなかった。
しょうがないので、再びプレイステーションの電源を入れると、気が付けば朝を迎えていた。
おかげで、すっかりと文也は昼夜逆転の生活を送る羽目になった。先ほどまでゲームをしていた。いつもの出勤までまだ時間はあったが、このままでは寝てしまいそうなので、文也は会社に向かうことにしたのだ。
職場に着くと、まだ誰もいなかった。文也は眠気覚ましのために買ったブラックコーヒーのプルタブを開けた。
「ああー。仕事したくねえ」
誰もいないから、つい大きな独り言が出てしまう。仮に仮病を使って休むことは出来るが、結局は帰ったとしても一緒だ。夕方頃まで寝て、またゲームをするだけ。
昼夜逆転を直す手立ては仕事しかなかった。夜まで寝ない環境下を作らなくてはならないのだ。
「よう。早いな」
そんな文也に背後から声がかけられた。背もたれにもたれかかっていた文也は身体を一度戻すと、背後を振り返った。
「なんだ。倉持か」
たかだか駅から徒歩三分程度なのに、倉持はすでに汗を大量にかいていた。額の汗をハンカチではなく、タオルで拭っている。
「朝っぱらだっていうのに、暑いなあ」
席に着いた倉持はコンビニ袋から“エネルゲン”を取り出す。
「まだエアコンをつけたばかりだからな。いい機会だ。痩せろよ」
「だからこれを飲んでいるんだろ」
オレンジ色をした缶が二つ倉持の机に並ぶ。
「何個飲んでも効果は変わんねえよ」
文也は声を上げて笑った。金曜の夕方から、笑ったのは今が久しぶりだった。
「うるせえ。分かってるよ。ただ喉が渇いただけだ」
二つ並んだ缶の一つを手に取ると、倉持はプルタブを開けるや否や勢いをつけて飲み始めた。
「ああー。効いてる、効いてる」
中身を半分ほど一気に飲むと、倉持は盛大なゲップをし、突っ張った腹を撫でた。妊婦のように突っ張っているので、Yシャツはパツンパツンだ。
「そんなに即効性はねえよ、全く」
てっきり合コンのことを
咎められると思っていた文也だったが、予想に反して倉持は何とも思っていないようだった。
もしかしたら、あれはきっと夢だったのかもしれない。ゲームのやり過ぎで疲れが出ていたのだ。
西野なんて変な女は、最初からいなかったのだ。
文也はそう結論付け、飲んでいた缶コーヒーを空けた。