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世紀末が終わるまで三か月を切った。ミレニアムを目前に、ニュース番組や新聞各紙では2000年問題を大々的に取り上げていた。
ノストラダムスの大予言――二十一世紀に人類は滅亡すると、まことしやかな噂を本気にしている人間も少なからずいる。
ブラウン管のテレビに映る頭の薄い大学教授もその内の一人のようだった。しきりにハンカチで、額なのか頭皮なのか分からない頭にかいた汗を拭っている。
「最近の大学教授はいいわよねえ。小学生の子が言うようなことを平然とテレビの前で言ってお金がもらえるんだもん」
夏の暑さが残るような日だった。開け放たれた窓から、飛行機が飛ぶ音が聞こえる。首を回した扇風機の微風が、岩崎文也の足を撫でた。
「な。俺でも大学教授なんて出来そうだ」
ベッドに寝転び、目を閉じていた文也はそう言って、上半身を起こした。ようやく先ほどまで流していた汗がひいていた。
「無理よ。高卒じゃ」
棒状のアイスを食べながら、女は無下に文也の言った言葉を切り捨てた。
「分かんねえじゃねえかよ。二十一世紀は高卒でも大学教授になれる時代になるかもよ」
薄い毛布を跳ね除けると、文也は裸のまま女の横に座った。
「それまで生きてるかしら」
ペロペロと舐めていたアイスを、女はガブリと噛んだ。凍った氷が噛み砕かれる音が聞こえた。
「だな。俺たちには関係のない話だった」
文也は扇風機のボタンを押すと、風を自分だけが当たるようにした。
「ちょっと。暑いじゃない」
「お前も裸になればいいじゃないか。なんで着替えた?」
女だってさっきまで裸だった。セックスが終わればすぐに着替えたのが、文也には理解出来なかった。
「裸のままじゃお腹を壊すじゃない」
「子供かよ、お前は」
四捨五入をすればもうお互い三十になるというのに。
「子供じゃありません。二十五ですー」
「知ってるよ。同い年だし。じゃあ、おばさんだな」
「あたしがおばさんなら、あんたはおじさんね」
「でも、これ以上歳を食うことはない」
ブラウン管のテレビから、教授の顔が消えた。代わって、液晶から映し出されたのは、アイスを手に取ったままの女が裸の男にキスをされるところだった。