X-3
駅のホームの反対側に彼女はいる。何かをじっと見つめている。僕は線路を挟んで向かいにいる。僕は手紙を握りしめている。
急行の通過の知らせが向かいのホームで鳴った。彼女は何かから顔をあげた。僕と目が合う。彼女の丸い目が大きくなったような気がした。僕は叫ぶ。
「僕は貴女を一目見たとき――」
列車の轟音に掻き消されたかもしれない、彼女に届いてないかもしれない。
列車が駅を過ぎ去り、反対側のホームが再び現れた。
彼女は居なかった。
緋色の空がぼやけた紺色に変わっている。茜色の空が恋しくて、僕は貴女の名を叫ぶ。
終