美しい桜と音-夏休み編-









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第5章
完璧じゃなくていい
洗い物を済ませた優希は洗面所へ向かった。だが、優希は洗面所のドアの前で立ち止まった。優希の頭の中では、ある葛藤が生じていた。

(やっぱりまずくねえか?いくら彼氏だからって一緒に入るのはなぁ…美桜のためにとは思うけど、やっぱなぁ…)

『彼氏なんだから入ってよ。』と美桜は言ったが、優希の心の中は揺れていた。確かに今は優希と美桜の2人だけ、美音は柊の家に泊まりに行っている。いえば、何しても自由なのだ。だが、優希は何故か躊躇ってしまう…自分でもわからないのだが…

「ねぇ、優ちゃんまだ〜?」

風呂場からは美桜の呼ぶ声がしている。呼ばれてまで入らないのはまずい…だが、なかなか一歩が踏み出せない。

(はぁ…ほんと情けない男だ。こんなんで怖じ気付いてるんだもんな…美桜に合わす顔がねえよ…)

そう考えてしまい、優希は自分が情けなくなりそして惨めに感じ、その場に座り込んでしまった。

(はぁ、情けねぇ彼氏だなぁ。)
「優ちゃんまだ…って優ちゃん?」
「み…美桜?」
「そこに座って何してるの?」

どうやら美桜は、なかなか入って来ない優希を心配に感じ、風呂場から出てきたようだ。

「これは…その…」
「早く入って来てよ。ほら早く…」
「美桜…俺やっぱり無理だ。」
「え…」
「一緒に入りたくないとかじゃないんだけど…なんか勇気出ねえんだ。最初の一歩が全然…誰もいないのにな…情けねえよ自分が。ははは…」
「……………………」
「ごめんな美桜…こんな彼氏で…ん!?」

何か喋ろうとした優希の口を、美桜が指で塞いだ。

「もう…優ちゃんの馬鹿…」
「え…」

美桜は笑っていた。

「私がそんなんで怒ってると思った?」
「そんなこと思ってないよ、自分がすごい情けないと思っただけだから…」
「そんな優ちゃんだからいいんだよ。」
「でも…」
「男だからビシッと全部決めなくてもいいんじゃないかな…って私は思うよ。」
「美桜…」
「優ちゃんは今までの優ちゃんでいいの。」
「美桜…ありがと。」
「だから、元気出して!」

美桜は優希を抱きしめた。タオルで拭いてないので美桜の体は濡れていたが、優希は気にしなかった。

(そうだ…何を俺は考えてたんだ。今は美桜に尽くさないとな。よし!)
「済まねえ美桜、風呂入るか。美桜風邪引いちまうし…」
「ありがと優ちゃん、それこそいつもの優ちゃんだよ。」
「そうだな。」
「早く入ろ!」
「ああ。」

優希は吹っ切れたのか服を脱ぐと風呂に入った。

夜明け前 ( 2023/09/26(火) 18:36 )