第135話
花火を終え、後片付けを済ませた蒼たち。
一度新内先生から集合の合図がかかる。
新内「はーいみんな、全員いるー?」
「「いまーす!」」
新内「よし。えー、実はここのコテージ、温泉があるらしく、本日はそこも貸切にしてくれたそうです!」
温泉と聞いてはしゃぐ生徒たち。
新内「はーい静かに!でも一度に全員が入るわけにもいかないので、3年生から順に入ってください!人数多いから各学年2グループくらいに分かれてね!もちろん、男湯は分かれてるので、男子諸君、くれぐれも覗かないように!」
「「はーい。」」
新内「明日は10時には出発するから、みんな寝坊しないように!夜ふかしし過ぎちゃダメだからね!」
「「はーい!」」
新内「じゃあ、今日はこれで終わり!解散!」
こうして解散した一同。
後輩は一度部屋に戻り、白石たちは温泉へと向かっている。
蓮「よーし、じゃあ俺たちも入ろうぜ!」
翔「そうだな、汗かいたし。」
蓮「蒼も行くだろ?」
蒼「もちろんそのつも」
そう言おうとした時。
深川「あ、橘君は温泉ダメだからね?もし転んで怪我しても困るから。」
蒼「え、でも汗かいてるし、このまま寝るの嫌ですよ俺。」
深川「でも危ないから・・・今日はタオルで拭くので我慢して、ね?」
蒼「・・・マジかよ。」
蓮「どんまい蒼。なに、心配すんな、お前の分まで入ってきてやるよ!」
蒼「励ましになってねえよ。」
深川「あ、あと、寝室も橘君はさっきの部屋使ってね?同じ部屋で話すのとかは良いけど、寝るのはくれぐれも別で。」
蒼「マジか・・・はぁ、分かりました。大人しくしときます。」
こうして蓮たちと分かれた蒼は1人部屋に戻り濡らしたタオルで体を拭く。
蒼「うーん、やっぱ左手使えないと拭きづらいな・・・。」
蒼が体を拭いていたその時。
ーコンコンッ。ー
ドアをノックする音がする。
蒼が返事をすると、ドアが開き飛鳥が入ってくる。
蒼「何だ飛鳥か。」
飛鳥「何だとは何だ、せっかく来てあげたのに。」
蒼「それはどうも。てか、飛鳥お風呂は?」
飛鳥「まだ。今しーさんたちが入ってるから。私はみなみたちとこの後入る。」
蒼「なるほどね。」
飛鳥「・・・何してんの?」
蒼「何って、見ればわかるだろ?体拭いてるの。深川先生に今日は風呂やめとけって言われてさ。風呂くらい入らせてくれても良いのにな。」
飛鳥「そっか、残念だね。」
蒼「ほんとだよまったく。まあ、怪我してるから仕方ないけどさ。でも、拭きづらいんだよなこれ。背中とか手届かないし、ほら。」
そう言って背中を拭くそぶりを見せる蒼。
すると飛鳥が蒼に近づき、手のひらをそっと差し出す。
蒼「なに?」
飛鳥「・・・仕方ないから飛鳥ちゃんが拭いてあげる。だからほら、タオル。」
蒼「いや、いいよ、なんか恥ずかしいし。」
飛鳥「手届かないんでしょ、いいからほら、タオル貸して。」
蒼「・・・じゃあ、お願いします。」
飛鳥にタオルを渡した蒼は上の服を脱ぎ始める。
飛鳥「な、なにしてんの!?」
蒼「え、なにって、脱がないと飛鳥拭きづらいかなと思って。」
飛鳥「そ、それはそうだけど・・・いきなり脱ぐな変態!」
理不尽に怒られる蒼。
蒼「悪かったって。じゃあ、頼むわ。」
飛鳥「こ、こっちみないでよね!」
蒼「はいはい。」
蒼の身体を丁寧に拭いていく飛鳥。ふと蒼が飛鳥の顔を見ると火が吹き出そうなほど赤く染まっていた。
蒼「飛鳥、なんでそんな恥ずかしがってんの。」
飛鳥「う、うるさい!見るなって言ったのに、バカ!」
蒼「いてっ。ごめんって、もう見ないから。」
目を瞑ったふりをして時折薄目で飛鳥を見ると、相変わらず恥ずかしそうに身体を拭いている。
それでも何とか身体を拭いていく飛鳥。
飛鳥「ま、前終わったから、後ろ向いて。」
蒼「はーい。」
飛鳥に背中を向ける蒼。そのまま背中を拭いてもらう。
数分後、拭き終わったのか飛鳥の手が止まる。
飛鳥「お、終わったよ。」
蒼「ん、さんきゅ。」
そう言って寝巻きのシャツに着替える蒼。
蒼が飛鳥を見ると、蒼の下半身をじっと見つめる飛鳥が目に映る。
蒼「・・・どこ見てんの、飛鳥の変態。」
飛鳥「なっ、ち、違うから!下は拭かないのかなって思っただけだから!」
蒼「流石に下は自分で拭くよ。飛鳥も嫌でしょ。」
飛鳥「私は・・・」
また顔を赤くする飛鳥。
蒼「ほら、そろそろお風呂空くんじゃない?準備しなくていいのか?」
飛鳥「あ、うん。」
蒼「俺も体拭き終えたら、もう寝るから。」
飛鳥「もう?早くない?」
蒼「んー、まあやることないしな。勉強しても良いけど、流石に今日はやめとくわ。」
飛鳥「そっか。」
蒼「うん。」
沈黙が流れる。
ふと飛鳥が蒼の左手をそっと握る。
飛鳥「・・・痛い?」
蒼「あー、ちょっとな。まあでも、骨折とかしてなさそうだし、良かったよ。」
蒼がそう言うと、そっと蒼の胸に顔を埋める飛鳥。その内啜り泣く声が聞こえてくる。
蒼「・・・悪い、心配かけたよな。」
飛鳥「・・・ほんと、怖かったんだから。蒼が死んじゃったらどうしようって。」
蒼「うん。」
飛鳥「このまま目覚さなかったらどうしよう、いつもみたいに学校一緒に行けなくなったらどうしようって。」
蒼「うん。」
飛鳥「良かった、本当に良かった・・・。」
しばらくの間泣き続ける飛鳥。その飛鳥の頭を、蒼はずっと撫で続けた。
ようやく泣き止み、顔を上げる飛鳥。蒼はそっと飛鳥の目を拭う。
蒼「ごめんな、心配かけて。」
飛鳥「ほんと、いつも私に心配かけやがって。蒼のバカ。」
蒼「ごめん。」
飛鳥「・・・でも、後輩を守ったのは、その・・・カッコいいと思う。」
蒼「お、おう。」
飛鳥「だ、だからって危ない目に遭っていいわけじゃないから!気をつけてよね!」
蒼「・・・うん、さんきゅ飛鳥。」
蒼に頭を撫でられ嬉しそうに微笑む飛鳥。
すると廊下から飛鳥を探す声が聞こえる。
蒼「ほら、みなみが呼んでる。そろそろ行きな。」
飛鳥「うん・・・。」
下を向く飛鳥。
蒼「・・・なに飛鳥、寂しいの?」
飛鳥「そう言うんじゃないけど、その、なんていうか・・・。」
蒼「もっといたかった?」
飛鳥「まあ・・・うん。」
蒼「やっぱ寂しかったんじゃん。」
飛鳥「う、うるさいな、仕方ないじゃん!今日ずっと蒼後輩とばっかで相手してくれなかったんだから!」
蒼「それは・・・悪い。」
飛鳥「まあいいけど!じゃ、私行くから!安静にしてなよね!」
そう言って去ろうとする飛鳥の腕を掴み引っ張る蒼。
そのまま飛鳥を抱きしめる。
飛鳥「・・・。」
飛鳥も蒼の背中に手を回す。
少しして飛鳥から離れる蒼。
蒼「飛鳥、顔真っ赤。」
飛鳥「う、うるさい!からかうなバカ!」
そう言ってベットから立ち上がる飛鳥。
扉の前まで歩いていく。
蒼「飛鳥、ありがとな。また明日。」
飛鳥「・・・うん。おやすみ。」
静かに部屋を出ていく飛鳥。
その後少しケータイをいじっていた蒼は、突然襲ってきた睡魔に負けそのまま眠りにつくのであった。