第119話
男の子を肩車し、屋台の並ぶ通りを歩く蒼。七瀬も並んで母親を探す。
蒼「そういや僕、お名前は?」
男の子「ひかる。」
蒼「ひかる君か、良い名前だね。ひかる君は、お母さんどんな格好してたか分かる?」
男の子「えーと・・・黒色の服・・・?」
七瀬「半袖、って言っても分からんか、ひかるくん、お母さんが着てたのってこれくらいの服?」
七瀬は肘の上あたりに手を当て説明する。
男の子「うん、それくらい!」
七瀬「てことは半袖かー。他は?何か覚えてたりする?」
男の子「えーと・・・あ、ゆうちゃんもいる!」
蒼「ゆうちゃん?」
男の子「うん!僕の妹!まだ赤ちゃんだからお母さんが抱っこしてるの!」
蒼「なるほど、じゃあ見つけやすいかもね。そういえば、何ではぐれちゃったの?」
男の子「えっと、お母さんがゆうちゃんのお世話で大変だったから・・・僕がお母さんにたこ焼き買いに行こうと思って・・・でも、たこ焼き屋さんどこにあるかわからなくて・・・」
話しながら泣きそうになる男の子。
蒼「大丈夫、必ず見つけるから。だからひかる君も頑張ろ?」
男の子「・・・うん、頑張る!」
必死に探す3人。だが、一向にそれらしき姿が見当たらない。
男の子「お母さんいない・・・。」
七瀬「だ、大丈夫!絶対おるから!」
男の子「・・・ほんと?」
七瀬「ほんとほんと!あ、たこ焼き屋さんあったよ、ひかる君、買う?」
男の子「うん、買う!」
たこ焼き屋に行き、たこ焼きを買う。念の為周りを見たが、お母さんの姿はなかった。
その後アイスが食べたいと言う男の子の為にソフトクリームを買ってあげた蒼。男の子は美味しそうにアイスを舐めている。
蒼「ひかる君、アイス美味しい?」
男の子「うん、美味しい!お兄ちゃん、ありがとう!」
蒼「どういたしまして!」
七瀬「それにしてもおらんな〜、ほんまお母さんどこ行ったんやろ・・・」
男の子「やっぱり、もう帰っちゃったのかな・・・。」
蒼「そんなわけない、大丈夫だよひかる君。・・・あ、そういえば。」
ふと足を止め、反対方向に歩き出す蒼。
七瀬「蒼?急にどしたん?」
蒼「いや、そう言えば入り口に係の人が居るテントがあったなと思って。だからもしかしたらそこに居るかも。」
七瀬「なるほど、蒼頭ええな!」
蒼「まぁね。」
蒼の勘を頼りにテントへ向かう一行。数分歩いて入り口付近に到着する。
蒼「ひかる君、お母さん居る?」
男の子「うーん、居ない・・・」
七瀬「マジか、ここもダメなんか・・・」
男の子「お母さん、どこ・・・」
3人が諦めかけたその時。
「ひかる!!」
3人の後ろから男の子を呼ぶであろう声が聞こえる。
男の子「お母さん!?どこ!?」
「ひかる!こっちよひかる!」
男の子「・・・っ、お母さん!!」
蒼が振り向くとそこには赤ちゃんを背負ってこちらに向かってくる黒の半袖を着たお母さんらしき人が居た。
蒼は男の子を肩車からおろす。
蒼「ひかる君の、お母さんですか?」
「そうです!・・・あなたたちは?」
蒼「ひかる君が迷子になってたので、一緒に探してたんです。連れ回してごめんなさい。」
男の子「お兄ちゃんとお姉ちゃんが僕と一緒に探してくれたの!アイスも買ってくれたんだよ!」
「そんなことまで!お、お金払います!」
蒼「そんな、お金なんて良いです!僕たちは当然のことをしたまでなので。それに、お母さんのためにたこ焼き買いに行くってひかる君見てたら、なんだか買ってあげたくなっちゃって。」
「そうですか・・・本当に、ありがとうございます・・・。」
男の子の母親はその場で涙を流す。
蒼「そんな、泣かないでください!」
男の子「泣かないでお母さん!はい、たこ焼きだよ!」
「ありがとう、ありがとうひかる・・・。でも、もうお母さんから離れたらダメだからね?」
男の子「うん、僕もう離れないよ!」
お母さんと抱き合う男の子。その様子を微笑んで眺める蒼と七瀬。
蒼「よし、じゃあ僕たちはこれで。ひかる君、お母さん見つかって良かったね。これからも、お母さんとゆうちゃんを守ってあげてね?」
男の子「うん!お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう!」
七瀬「ひかる君、バイバイ!」
男の子「バイバーイ!」
お母さんと手を繋ぎ帰っていく男の子を見送った2人。気づけば時刻は21時をまわっていた。
蒼「あれ、もうこんな時間か・・・祭りもそろそろ終わりそうだし、俺たちも帰ろっか。」
七瀬「うん、そうやな。帰ろっか。」
こうして2人も男の子を追うようにして祭りを後にするのだった。