第5章
第98話

七瀬の元へ駆け寄る蒼。

蒼「七瀬、大丈夫か!」
七瀬「大丈夫、なんか踏んじゃって、切っただけ・・・。」

七瀬の足を見ると裏の真ん中あたりが切れてしまっていた。見たところ、落ちていたガラスの破片を踏んでしまったようだった。

蒼「とりあえず、手当てしよう。ほら、乗って。」

蒼は七瀬に背中を向けおんぶの格好になる。

七瀬「え、ええよそんな。一人で歩けるから・・・。」
蒼「バイ菌入ったらどうすんの。ほら、早く。」
七瀬「う、うん・・・。」

そういって蒼の背中に体を預ける七瀬。
蒼は軽々と持ち上げる。

蒼「じゃあちょっと手当てしてくるから。みんなは遊んでて。あ、もう誰も怪我するなよ。」
白石「分かった!なぁちゃんをよろしくね!」
蒼「あぁ。」

蒼は七瀬をおんぶし、海の家にある医務室へと向かった。

白石「蒼君、あそこから気づいたのかな?」
生田「あんなに遠いのに、凄いね・・・。」
蓮「そりゃみんな惚れるわ。」
松村「これが学校一のモテ男の秘訣かあ・・・蓮君もあおちゃんを見習わな!」

そんなことを話されてるとはつゆ知らず。蒼は医務室に到着する。

救急箱を借り消毒をする。

蒼「破片とかは入ってないみたいだな・・・。滲みるかもだけど我慢してね。」
七瀬「・・・い、痛いっ!」
蒼「あー、結構深くいってるな・・・。今日はもう安静にしとこっか。」
七瀬「やな・・・。あーぁ、せっかくみんなで海来たのに。」
蒼「無理に遊んで怪我悪化したらそれこそコテージ行けなくなったりしたら困るでしょ?」
七瀬「うん、そっちの方が嫌や。なな、大人しくしとくわ。」
蒼「そうだね。・・・よし、これで終わり。」

ガーゼを当て包帯を巻く。

七瀬「ありがとう、蒼。」
蒼「いいえ。じゃ、戻ろっか。はい。」

蒼は七瀬をおんぶし医務室を出る。
すれ違う人々が2人を見る。

「あー、ママ〜、おんぶしてるー!僕もしたーい!」
「こ、こら!すみません!ほら、良いから行くよ!」
「えー・・・」

去っていく親子。

蒼「なんか、恥ずかしいね・・・。」
七瀬「うん。でも、なな嬉しい・・・。」

そう言って蒼の背中にピッタリとくっつく七瀬。

七瀬「・・・蒼の背中、あったかい。」
蒼「七瀬・・・それは色々やばい。」
七瀬「ふふっ、蒼の変態。」
蒼「七瀬のせいでしょ。」

そんなこんなで荷物置き場に戻った2人。

飛鳥「・・・おかえり。」
蒼「ただいま。ほら七瀬、降りて。」
七瀬「ん、ありがとう、蒼。」
蒼「いいえ。あ、なんか飲む?」
七瀬「うーん、じゃあお茶で。」
蒼「はいよ。・・・はいどうぞ。」
七瀬「ありがとう。」

仲良さそうにやり取りする蒼と七瀬。

飛鳥「・・・あ、蒼!泳ぎに行こ!」
蒼「え、今はいいよ・・・。ちょっと疲れたから休憩させて?後で行くから。」
飛鳥「・・・。・・・い。」
蒼「飛鳥?」
飛鳥「もういい、蒼なんて知らない!」

浮き輪を持って飛び出す飛鳥。
そのまま1人で海の方へと行ってしまった。

蒼「怒らせちゃったか・・・。まぁ、いつもみたいにすぐ戻って来るだろ・・・。」
七瀬「今のは蒼が悪いで?ななのこと置いて行ってくれて良かったのに。」
蒼「いや、それもあるけど、普通に遊び疲れてさ。昨日あんまり眠れなかったし。」
七瀬「そっか。でも、飛鳥の気持ち、無下にしたらあかんで?」
蒼「飛鳥の気持ち?」
七瀬「え?」
蒼「え?」

顔を合わせる2人。

七瀬「・・・はぁ。蒼、それはさすがに鈍感が過ぎるで。」
蒼「え、何が?飛鳥がどうかしたの?」
七瀬「いや・・・なんでもない。気にせんといて。」
蒼「?」

蒼は七瀬の言葉が胸に引っかかりながらもあまり気にすることなく、時間を過ごした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

飛鳥は1人海の上でぷかぷかと浮いていた。

飛鳥「ふんっ、蒼のバカ。せっかく飛鳥ちゃんが誘ってあげたのに。もう謝っても絶対許してあげないもんねーだ!」

空を眺める飛鳥。

飛鳥「あーぁ、また喧嘩しちゃったな・・・。本当は喧嘩なんてしたくないのに・・・。やっぱ、蒼はなぁちゃんみたいな子が好きなのかな・・・。」

そっと涙を流す飛鳥。
ふと気がつくと結構沖の方まで進んでしまっていた。

飛鳥「・・・。結構進んじゃったな。怖いしそろそろ戻ろうっと・・・あれ?」

飛鳥が浮き輪を握ると明らかに少し空気が抜けている。

飛鳥「え、嘘!?」

空気口を確認するが、閉まっている。ということはどこかに穴が空いているのだ。

飛鳥「そんな・・・早く戻らないと!」

飛鳥は必死にバタ脚をする。
だが、波の影響もありなかなか進めない。
その間にもどんどん空気は抜けていく。

飛鳥「あ、待って、嫌だよ・・・みんな・・・おい・・・。」


Haru ( 2021/10/30(土) 11:22 )