第4章
第85話

山下の家に連れてこられた蒼。

蒼「いや、そんな急に大丈夫なのか?家族とかいるだろ?」
山下「実は今日両親の結婚記念日で、2人でデートに行ったらしくて・・・。私1人なんです。」
蒼「1人って・・・。なんかそれはそれでまずい気もするけど・・・。」
山下「ダメ、ですか?」

上目遣いで蒼を見つめる山下。

蒼「まぁ・・・ちょっとなら。」
山下「ふふっ、先輩はそう言ってくれるとおもいました。さ、どうぞ。」
蒼「はぁ・・・。」

玄関を開け中に案内される蒼。

蒼「お、おじゃましまーす。」
山下「だから誰も居ませんって〜。律儀な人ですね、先輩って。」
蒼「悪かったな。」
山下「やだなぁ褒めてるんですよ〜。」

リビングに案内される。

山下「すみません散らかってて。ソファにでも座ってください!」
蒼「はーい。あ、そう言えばお昼どうする?何か頼むの?」
山下「いえ、頼みませんよ!私が作ります!」
蒼「え、山下料理できるの?」
山下「先輩、もしかして私のことバカにしてます?」
蒼「いや、してないけど、イメージないなと思って。」
山下「私だってたまには料理しますよ!見ててください、とびきり美味しいの作ってあげます!」
蒼「じゃあ、なんか手伝うことあったら言って。すぐ行くから。」
山下「はーい、ありがとうございます。」

山下がキッチンに向かう。
蒼は落ち着かない様子で部屋を見渡す。
水色のカーテンの隙間から暖かい日差しが差し込み、窓際の観葉植物を照らしている。

待つこと30分、山下の手料理が完成する。

山下「先輩、お待たせしました。食べましょう!」
蒼「ありがとう、って肉じゃがじゃん!手こんでるなぁ。」

山下が作ったのは肉じゃがと卵焼き、味噌汁といった蒼の大好きな和食だった。

いただきますをして、まずは味噌汁を口に運ぶ蒼。
蒼「・・・ん、美味しい。」
山下「ほんとですか!良かったぁ。」

続いて肉じゃがを食べる。短時間で作ったとは思えないほど味がよく染み込んでいた。
卵焼きも少し甘めで蒼の好みの味そのものだった。

蒼「この肉じゃが、凄い味染みてて美味しい。それに玉子焼きも、俺の好きな甘めの味付けだ。お店出せるよこれ。」
山下「え〜嬉しいです〜!私も食べよーっと・・・うん、美味しい!」

その後2人は黙々と食べ進め、あっという間に完食した。

蒼「ごちそうさま。ほんと美味しかった。食器洗うから貸して?」
山下「え、良いですよそんなお客さんなんですから。」
蒼「いいの。作ってもらったんだからこれくらいさせて。」
山下「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます。」
蒼「いいえ。」

食べ終えた2人分の食器を洗う。
その間に山下は部屋を片付けに行った。

無事洗い終えたタイミングで部屋着に着替えた山下が戻ってくる。

蒼「洗い終わったよ。」
山下「ありがとうございます。じゃあ、私の部屋行きます?」
蒼「俺はリビングでも全然良いんだけど。」
山下「え〜、せっかく掃除したのに〜。来てくれないんだ〜。悲しい〜。」

泣き真似をする山下。

蒼「分かった行くから。」
山下「ふふっ、先輩って意外とちょろいですね。」
蒼「うるせぇ。」

山下に連れられ2階に上がる。部屋に入るとそこはいかにも女の子らしい部屋だった。

蒼「綺麗にしてるんだな〜。」
山下「普段はもうちょっと服とか散らかってますけど、先輩が来ると思って片付け頑張りました。」
蒼「それはどうも。」
山下「あ、飲み物持ってきますね。お茶でいいですか?」
蒼「あぁ、うん。ありがとう。」

お茶を取りに行く山下。
部屋を見渡す蒼。机の上には蓮加達との写真がたくさん飾られていた。

山下「お待たせしました〜。あ、いいでしょうその写真たち。私のお気に入りなんです。」
蒼「仲良いよなほんと。この後ろにいる子達も友達なんでしょ?」
山下「はい。私たち12人でいつメンなんです!普段は散らばってますけど、集まったらすごく仲良いんです。私はそれが好きで。」
蒼「でもこれ高校の写真ばっかりだな。中学は?仲良い子居なかったの?」
山下「あ〜、中学はあまりいい思い出なくて・・・。実は私、高校でみんなと出会うまでいじめられてたんです。」
蒼「え・・・。」
山下「あぁでも、高校入ってからはないですよ!みんな仲良くしてくれてます!」
蒼「ごめん、変なこと思い出させちゃったな・・・。」
山下「いえ、気にしてないです。それに今は、みんなや先輩と一緒にいられて私幸せなので。それで十分です。」

山下はそう言って微笑んだ。

その後山下とスマホで動画を見たりして何気ない時間を過ごす蒼。

ふと山下が何かを思い出す。

山下「あ、そうだ、せっかくなので写真撮りませんか?2人で遊んだ記念に。」
蒼「記念って・・・ただ遊んだだけだよ?」
山下「いいじゃないですか〜、私にとっては記念なんです。ほら、撮りますよ〜、はい、チーズ。」

山下は蒼に寄り添う形で写真を撮る。

山下「よし、撮れました。ありがとうございます。」
蒼「半ば強引だったけどな。」
山下「そんなこと言わないでくださいよ〜。」

そう言って撮った写真を眺める山下。

山下「ふふっ。」
蒼「なに、急に笑ったりして。」
山下「なんかこうして見ると、私たち付き合ってるみたいだなあって思って。」
蒼「そうだな。」
山下「あれ、否定しないんですか?」
蒼「まぁ、そう見えなくもないからな。付き合ってはないけど。」
山下「すぐそう言う事言う〜。そんなだとモテませんよ〜?」
蒼「余計なお世話だ。てかいい加減どいてくれ。」
山下「え〜なんでですか〜。先輩も嬉しいくせに〜。」

そう言ってますます身体を寄せてくる山下。
ふと蒼が視線を落とすと、山下のTシャツの襟から胸元が見え隠れしている。

蒼「あのさ。」
山下「なんでしょう?」
蒼「その・・・見えてるぞ、色々。」
山下「・・・わざとって言ったら?」
蒼「あのな、先輩をからかうのもいい加減に」

その時、山下の唇が蒼の唇にそっと重なった。


Haru ( 2021/10/23(土) 19:49 )