第1話
桜の花びらが舞う小さな公園のベンチに座り、男は空を見上げる。
心が洗われるような澄みきった空に、ただ1羽の鳥が飛んでいる。
男はふぅっと息を吐き、手に持った1つの封筒に目を落とす。それは10年前、大切な人がくれたものだった。あの日初めて出会った時から忘れることのなかった人。
男は静かに古びた封筒を開け、手紙を読み始めた。
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〜10年前〜
ージリリリリリッ. ジリリリリリッー
頭の上で響くアラームを止め、時刻を見る。7時30分。
???「ん〜・・・ダメだ眠い、もう少し寝よう。」
もう一度蒼が寝ようとしたその時、階段をドタドタと上がってくる足音がする。
ーガチャッー
???「蒼お兄ちゃん起きて!朝だよー!」
蒼「ちょっ、うるさい蓮加、あと15分寝かせて。」
蓮加「ダメ!それで何回も遅刻しそうになってるんだから!早く出て!」
蒼「・・・・・・(すぅ)。」
蓮加「もう、始業式遅れても知らないからね!」
そうだ、今日からまた学校だ。
そう思った蒼はひとつため息をつき、体を起こす。
蒼「ふぁーぁ、ねむ・・・。」
蓮加「おはよお兄ちゃん。朝ごはんできてるから早く食べて準備してね!飛鳥さんもう来てるから!」
蒼「おはよ。てか、え、早くない?いつもよりまだ30分も前じゃん。」
蓮加「んー、何でかはわかんないけど、とりあえず早く準備!」
蒼「はいはい、わかったよ。(蓮加も母さんに似てきたな。)」
蓮加「・・・なに?」
蒼「何でもないです。」
ベッドから出て布団をたたみ、1階へ降りる。
???「あ、蒼おはよう!飛鳥きてるよ!」
蒼「おはよみなみ。てかもう出るの?」
みなみ「私今日朝練なの。春休み明けて早々ってまじありえなくない?まあいくけどさぁ。じゃ、飛鳥の相手よろしく!行ってきまーす!」
蒼「行ってらっしゃーい。さてと。」
洗面所で顔を洗いリビングに向かう。
すると飛鳥がソファに座ってコーヒーを飲んでいた。
蒼「おはよう飛鳥。てか今日早すぎない?」
飛鳥「別に、暇だったから早く来ただけ。悪かった?」
蒼「いや、悪いというか、流石に早すぎる、俺起きてなかったし。」
飛鳥「蓮加とみなみに許可もらってるからいいでしょ。それよりほら早く準備して。」
蒼「はいはい。」
蒼は制服に着替え朝食を食べる。
ここで主人公である俺、橘蒼(たちばなあおい)ついて説明しておく。蒼は乃木高校に通う学生で今日から高校3年生になる。成績優秀スポーツもそれなりにできる。料理や家事が得意な一方、朝にはめっぽう弱い。
蓮加は蒼の1つ下の妹で蒼と同じ乃木高校に通う。しっかり者で毎朝蒼とみなみを起こし、朝食まで作っている。高校生にしては大人びており、普段は兄や姉に厳しい事ばかり言う蓮加だが、実際は兄と姉が大好きなツンデレキャラである。趣味はダンスで苦手なことは勉強。
みなみは蒼と同い年で今日から高校3年生になるが、高校は陸上の強い高校に行きたかったため、蒼と離れ乃木高校から徒歩30分程度の距離にある櫻高校に通う。スポーツ万能。陸上をする姿と裏腹に、声と仕草が可愛らしく、高校では可愛いの天才というあだ名までついているらしい。
ここで、俺とみなみを兄妹にも関わらず同い年としているのは、蓮加を含め3人が本当の兄妹ではないからなのだが、今はそれは割愛しよう。
飛鳥は俺の昔からの幼馴染であり、乃木高校に通う同級生でもある。家が隣なこともあり、毎朝俺の家に迎えに来ては一緒に登校している。その可愛さと美しさを兼ね備えた見た目から男子から人気だが、当の本人はあまり人に興味がなく、コミュニケーション能力も乏しいため話せるのは俺を含めごく僅かである。本を読むのが好きだが、勉強が得意なわけではなく、スポーツは壊滅的である。
蒼「とまあ、こんなところか。」
飛鳥「何が?」
蒼「(や、やべぇ、声に出てた。)な、何でもない。」
飛鳥「食べ終わったなら早く歯磨いてきて。」
蒼「はいはい。」
食器を片付け、歯を磨く。
最後に髪型を整える。
蒼「よし、完璧。飛鳥、お待たせ。」
飛鳥「ん。」
飛鳥は読んでいた本を閉じ、鞄にしまう。
蒼「じゃあ蓮加、行ってくる。」
蓮加「はーい、お兄ちゃんも飛鳥さんも行ってらっしゃい!私もあとで行くね〜!」
飛鳥「行ってきまーす。」
こうして2人は家を出た。