この名をキミに捧ぐ
シュパッ..。
今日、公園に鳴り響く、キレのある音。軽快なドリブル音。
「くっそー。パパ!もう一回!」
「ちょっと待って。もうきついって..。」
体にだるさを感じる。せっかくの休日を割いて子供に使う。当たり前のようで当たり前でなく、
尚且体が追いつかない。
30代の俺の体は、もうピークを迎えている。大好きなバスケだから、まだそれも和らいでいるだけ。
「ちょっと休憩..。」
「僕は練習するからね?!」
「少しやすんでからにしろよ。」
「えー..、それじゃパパに勝てないじゃん!」
「せめて飲み物飲んでからな?」
「うん!」
そう言ってあらかじめ持ってきていた水筒からお茶を注ぎ、一口でゴクリと飲むと、子は颯爽とコートへと向かった。
そのコートでバスケをすると、やっぱりあの思い出が頭を
過ぎる。
そしてそれは、今でもかけがえのない思い出となってる。
「空くん!お疲れ様!」
ほら、思い出がやってきた。
「おう。」
「休みなのに面倒見させてごめんね?」
「いいよ。知空も家にいて良かったのに。」
「ううん。こうして公園に来るのも久しぶりだなぁ..、なんてね。」
空を仰ぎながら笑顔を見せる。昔より少し大人びて、でもまだ可愛げのある笑顔だった。
「ここで...、初めて会ったんだよね。」
「そうだな。」
「何年経つんだろー。」
「分かんないなぁ。」
「え!それは覚えといてよ。」
「わ、悪い。でも、そういう知空は覚えてんの?」
「そ、それは..。」
頭を抱える妻。
「だろうね。」
「あはは、ごめんね。」
両手を合わせるしぐさをしながら片目を瞑ってウインクをする。この年齢で言うのもなんだけど、正直可愛い。
「パパー!もう休憩終わりだよ!」
コートから、幼くも大きな声が聞こえる。
「はぁ..。行ってくる。」
「空くんのバスケ、見とこーっと。」
「はぁ?体動かないから前みたいにできないし。ってか、我が子相手に本気でしないから見ても楽しくないよ?」
「うーん。私は、バスケしてる空くんが一番楽しそうにしてると思うなぁ。陽太と遊ばせてる時みたいに..。」
「そーか?」
「うん!私が世界でいっちばん好きなのは、空くんと陽太が楽しそうに笑ってくれてることだから!」
俺はそう言われて、笑顔の妻から元気な我が子へと送り出される。
〜※〜
人は出会いを大切にしようとはしない。
その先の関係性を大事にしようとする。
でも一番大切なのは、その人と出会うこと。
出会いが、全ての始まり。
出会いがあるから、別れがある。
出会ってしまったから、別れを悲しむ。
その悲しみが、人をまた成長させ、
また新たな出会いへと繋がる。
出会った二人は、やがて大きな生命を作り出し、そしてその生命は、また新たな出会いを経る。
そうして、人は繋がる..。
〜※〜
俺、前田空大と妻、前田知空とのあいだに生まれた、名前は陽太。
二人の名前に入っている「空」からとって生まれたその名。
大きな二つの「空」が、もし雨風に負けそうになったとしても、その「太陽」が、明るく照らしてくれる。そんな存在になって欲しいから。
そしていつか、暗闇や絶望や、悲しみを持った人と出会ったとき、明るく照らして救ってあげれる人になって欲しいから。
この名をキミに捧ぐ...。