第23話
季節が過ぎるのは早いもので、五月の終わりに差し掛かっている。
富士急に5人で行ってからもう約3週間が経つ。
あと数日で中間考査の1週間前に入るというところだが、バスケ部の智大と橋本は新人戦の直前。
白石も同じく新人戦の直前ということでバタバタした毎日を送っていた。
一方、帰宅部の僕とコンクールも終えしばらく大きな大会がない西野はゆったりとした毎日を過ごしていた。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り6限が終わる。
先生が教科書を持って教室から出ていく。
「はぁ、疲れたぁぁ」
隣の席の西野が呟く。
「西野って、6限わった後に疲れたぁぁっていうのがもはや日課になってるよね。」
「あ、ほんまや。よくないなぁ」
「まぁ、テスト前だから仕方ないよね。」
「ほんまそれなぁ、でも運動部勢はもっと大変そうやなぁ」
そんな話をしているうちにもう白石と橋本、そして智大は部活へ行き教室からいなくなっていた。
「じゃあ、僕たちは帰ろっか。」
「ちょっとみんなの部活のぞいて行かへん!?」
西野が珍しく提案してきた。
「え、いいけどどうしたの?」
「んー、なんかさ3人部活ではどんな感じなのかなーって気になってんよ」
「ふーん、西野がねぇ珍しいね。いいよ行こっか。」
そういい、僕たちが最初に向かったのはソフトボール部が練習しているグラウンドだった。
金属バットの音が響き渡っている。
まだ、3年生もいるため入学したての1年生はまだあまり練習させてもらえないのだろうなぁと思いのぞいてみる。
案の定ノックが行われているグラウンドには球拾いと思われる集団がいた。おそらく一年生だろう。
白石を探す。なんせ人が多く集団を何度も探すが見つからない。
おかしいなと思いノックを受けている人たちの顔を確認してみる。
あの顔立ちだから今度はすぐ見つかった。白石はショートのポジションでノックを受けていた。
ボールがバットから放たれると同時に軽快なステップでボールの正面に入る。
グラブにボールが入ると足を無駄無く捌き、流れるようにファーストに送球する。
部活内で1番とは言い難いが間違いなくレギュラーは取れるのではないかというように周りの人たちの動きを見ていると思った。
「まいやん、めちゃくちゃ上手くない?」
「う、うん。うまい…。たぶんあれレギュラー取ってるよね。」
「そうやな…ななびっくりしたわ」
フェンスの外で驚いているとノックを終え水分補給をしに選手がこちらに引き上げてきた。
白石もこちらへ来る。
「あっ、直樹!なぁちゃん!見にきてくれたの!?ありがとう!」
白石がこちらにきてくれ喋り始めた時だった。
後ろから上級生と思われる人が来て白石に強めの口調で喋り始めた。
「白石さん。練習中に無駄なことをしないように。レギュラー取ったからって調子乗ってたらチームに迷惑がかかるからそんな気持ちでやってるなら今すぐ辞めてもらえる?」
なかなか厳しめの口調だ。
僕にはそれが愛のある先輩から後輩に対しての注意には聞こえ難かった。
「い、いや、白石は悪くないです!僕たちが邪魔したのが悪かったので。あんまり責めないであげてください!」
あまりの口調の強さに白石を庇わずにはいられなかった。すいませんでしたと言い下を向いたままの白石。
僕が自分が思っていたより大きな声でそういうと先輩はその言葉には返答せず部員の元へ戻っていった。
「ごめんね。私戻るね…」
「あ、うん…」
僕の返事を聞く前に僕たちに背を向け、白石は部活へと戻って行った。