第19話
しばらく進むと今度は手術室のような場所についた。
ベッドには明らかに包帯でぐるぐる巻きにされたゾンビのようなものが横たわっている。
『これ絶対動くよねぇ。』
通路の位置的にどうしてもそのベッドの真横を通るしかゴールに向かう方法はない。
「あそこ、通るしかないね。」
「いや!むり!絶対動くよぉぉ。」
「走れば一瞬だよ。ここにいても進めないしさ?ね?」
しばらくの沈黙の後、覚悟を決めたのかコクリと頷く白石。
「よし。いくよっ!」
彼女の手を引き走り始める。
白石もダッシュでついてくる。
案の定ベッドからゾンビが襲ってきたが、走っていたからかすぐに巻くことができそのままダッシュで手術室を出る。
ところが、その時だった。
手術室を出た瞬間そこに待ち受けていたのは10体ほどの大量のゾンビたちだった。
さすがにこれには僕も驚いた。
「むりぃぃぃぃ!やめてぇぇ!ごめんなさい!ほんとにごめんなさぃぃぃ!」
ゾンビに謝罪を始める白石。
止まっても仕方がないと思い。小走りでゾンビの中をくぐり抜けていく。
狭い廊下だったために白石の至近距離までゾンビが迫る。
白石はもう言葉にならない嗚咽といえるような声をあげていた。
ゾンビの間をくぐり抜けとりあえず静かな所へ着いた。
もう完全に涙を流して泣いてしまっている。
「だ、大丈夫?」
そう聞きながら振り向いた瞬間だった。
白石が僕の胸に飛び込んできた。
「え、し、白石?」
白石の腕が僕の背中に回される。
そして、僕の胸に顔をうずめてすすり泣いている白石。
女性経験の乏しさ故、僕の両腕は行き場を失い宙に浮いている。
「ずずっううっうううっ」
泣いている白石が自分の胸にいる。本能からなのか気づいたら僕の腕は白石を包んでいた。
「大丈夫だよ。」
そう言って白石の頭を撫でる。
どうしてこんなことができているのか正直わからない。
強いて言えば昔優菜がデパートで迷子になった時もこんな感じだったような気がする。
その時と同じ要領でやれているのだろうか。
頭を撫でていると次第に落ち着いてきた白石。
次第に僕も現実に戻ってきた。
腕の中にいるのは優菜ではない。クラスメイトの白石だ。
『この状況やばくない?どうしよう…橋本とかに見られでもしたら…』
次から次に不安がよぎる。
そして、今まで気づかなかったが僕の体に何か柔らかいものが当たっている。
今まであまりそういう目で見たことはなかったが、意外と大きい。
「だめだ!だめだ!」
胸の感触が決め手になり完全に現実に引き戻された僕。
状況に気づき急いで白石を離れさせる。
「ごめんね。直樹、迷惑だったよね。」
落ち着いた白石がいつもの声に戻り謝る。目は腫れたままだ。
「ううん。大丈夫だよ。でも、みんなに見られたら色々面倒だからさ。ごめん、その、突然離しちゃって。」
「ううん。拒否されたらどうしようってちょっと思ったけど。直樹が優しくてよかった。」
腫れた目でこんな状況でも精一杯の笑いを見せてくれる。
「そりゃあ、泣いてる女の子が目の前にいたらね?」
「へぇ、ちょっとは男らしいとかあるんだー?」
「うるさい!ていうか今まで男らしいとこないと思ってたのかよ!」
場が少し和んだ。
よかった。いつもの感じだ。
幸い、ゴールはもう目の前で無事ゴールした。
お化け屋敷の中での出来事は2人だけの秘密になった。