15
ファミレスのドアが開くと、ひやりとした冬の風が肌を撫でた。
吐く息が、白く空へ溶けていく。
「寒いね」
京子がそう言いながら、コートの襟をぎゅっと掴んだ。
蓮は「……そうですね」とだけ応えて、自然と駅のある方角へ歩き出した。
京子も何も言わず、隣を並んで歩き出す。
冬の朝。土曜日のせいか、駅へと向かう道には人の姿がほとんどなかった。
遠くに見える自動販売機の灯りと、始発を告げる電光掲示板の文字が、朝を無言で照らしていた。
駅前のロータリーに出ると、徐々に彼女の足が緩やかになった。
それを察した蓮も、自然と歩みを落とす。
改札の前で、京子が足を止めた。
「……じゃあ」
そう言って、蓮はほんの一瞬、言葉に詰まる。
連絡先を聞くべきか、もう一度どこかで会いたいと言うべきか――
だが、何も言えなかった。
彼女が抱えているものが、自分にはまだ触れてはいけないものに思えた。
だから、何かを言いかけて、結局、ただ一言だけを選んだ。
「また」
それだけを残し、蓮は京子に背を向けた。
けれど、その数歩先。
肩の後ろで、ふいに何かが服の裾を引いた。
驚いて振り向くと、京子がほんのわずか、彼の上着をつまんでいた。
目が合う。
その目は、どこまでも真っ直ぐで、でもどこか、泣き出しそうにも見えた。
「……やっぱり、帰りたくない」
その言葉は、小さな、けれど抗えない震えを帯びていた。
言葉が、出なかった。
駅の自動改札機が、何かのカードを読み取る音だけが、乾いた空気に響いている。
人影はない。
土曜日の早朝、駅の中心には、ふたりだけが立っていた。
時間が止まったようだった。
周囲の音も、温度も、全部がどこか遠くへ行ってしまったような感覚。
蓮はゆっくりと、京子の手元へ目を落とした。
彼女の指先は、まだ彼の裾をそっと握っている。
それはまるで、寒さに凍えた誰かが、ひとときの温もりを求めて触れるような、そんな優しい仕草だった。