02 承
ある日、相も変わらず客足も疎らとなり暇を持て余すのにも飽き飽きするほどの僕は同い年のバイト仲間の松本とお喋りに興じていた。
「しっかし、暇だよな〜 帰っていいんじゃねぇのオレ」
いささか口の悪い松本が欠伸混じりに伸びをしながそんなことをこぼした。
「なに言ってんだよ。こうして立ってるだけでお金が入るバイトなんてそうそう無いだろ」
ひとつ訂正しよう。口が悪いのは僕も同じだ。
「そうだけどよ〜 なんか面白いことないか?」
「面白いことって言われてもな……」
松本のムチャブリに頭を悩ませると、あの客のことを思い出した。
「あ!お前さ、黒スーツのピン札の客って知ってる?」
「黒スーツのピン札の客?」
腰をひねってストレッチをしている松本が僕の質問に食いついた。
「そうそう。毎回ピン札の万円札の」
「あ〜!はいはい、知ってるかも。あれだろ?毎回領収証もくれって言ってくる客だろ」
「そう!"あの、領収証も下さい"って同じ口調で言ってくる客な。毎回だから言わなくてもやるっての」
僕はその客の口調を真似しながら松本の方を向いた。
「ちょっと似てっかも」
「だろ?しかもさ、あの人いつも大学の問題集ばっか買ってくからさ、それも面白いんだわ」
「大学の問題集?」
ふいに松本が怪訝な表情を浮かべた。
「えっ!?毎回いろんな大学の過去問集買ってるだろ?」
松本の反応にさらに詳しく説明をしてあげた。
「いやいや、そんなの買ってねぇって。確かリハビリの本だろ?脊損患者向けの」
「あれ?そうなの?」
「て言うさ、大学の問題集ばっか買うってお前に対する当てつけなんじゃね?」
そう言うと松本はニヤリッと笑いながら僕の顔を見た。
確かに、松本の言う通り大学の問題集を買わなきゃならないのは、この春に受験に失敗した浪人中の僕なのかも知れない。
「ん…」
なかなか痛いところを突かれた僕は今度の休みは勉強をしようと心に決めた。