言えなかった言葉
05
 自分の目と耳を疑った。君が友人と話していることに。楽しそうに、嬉しそうに、今まで見たことのないような幸せそうな笑顔を浮かべて友人と話していることに。

 すぐ目の前の出来事なのに2人の会話は、どこか知らない国の言葉の様に聞こえてくる。理解を越える光景に身体が動かない。肺も、心臓も働き方を忘れたみたいに動きを止めた。それなのに、両目だけは視線を2人を行ったり来たりしている。

 もうやめてくれ。
心の中でそう叫んでいた。すると、その願いが届いたかのように君が友人に手を振り食堂から去って行った。

 君が見えなくなった頃、さっきの娘って――
やめておげばいいのに僕は震えそうになる声を必死に抑えて友人に訊ねてしまった。

「あぁ、えっ?」

 少しはにかみながら友人が答える。

「お前に言ってなかったっけ?」

 いい。やっぱり答えなくてもいい。

「夏くらいからかな」

 次の言葉だけは聞きたくない。

「付き合ってんだわ」

 やっぱり。2ショットの待受を見せながら友人が笑う。

「美郷って言うだけどさ、見たことあるだろ?講義も――」

 美郷…… 名前だけは聞き取れた。だけど、後半は耳が拒絶していた。

「そうなんだ、知らなかったよ。おめでとう」

 友人の言葉を遮る様に、言葉から避ける様に、食べかけのままの盆を持ち、立ち上がった。

「ごめん。僕、用事があったんだった。先に行くよ」

 友人の返事も待たずに食器を返し食堂から出ていった。

 用事なんてないのに、行くあてなんてあるもはずないのに、一刻も早くこの場から離れたくて、逃げたくて僕は走った。


 走りに走って校門を抜けた。空を見上げれば、目から涙の雫が頬を転がる。嗚咽だけは唇を噛み締めてなんとか堪えた。


 雲ひとつない秋の空は残酷なまでに美しく、突き抜けるほど青く、高かった。この時、初めて空を見るのが辛いと感じた。

 そのまま僕は大学そばの小さな公園へと歩いて行き、ベンチに寝そべった。

 空はどこまでも繋がっていて大切なあの人もどこかで見ているよ。昔、絵本か何かで見た言葉を思い出したら、何故か悲しくなって、今まで押し留めていた気持ちが溢れ出した。

 滲んだ空は、太陽の光で今までにないくらい綺麗に見える。僕は滲んだ空を見上げ続け、呟いた。

「大好きでした」

 小さな僕の呟きは秋の空へと消えていった。




■筆者メッセージ
大学生の話はないかなと思い作ってみました。

いずれ長編でも挑戦したいですね。大学は行ってませんが憧れと妄想で
絹革音扇 ( 2014/01/11(土) 22:42 )