言えなかった言葉
02
 君から遅れること数秒後に講堂へと入った僕の背中を誰かが叩いた。

「おっす!何つっ立ってんだ」

 僕の数少ない友人だ。

「おはよ。別に、座る場所探してただけさ」

 この友人には普通に話せる。友人だから当たり前と言えば当たり前だけど。そんな友人と他愛もない言葉を交わしながらも僕の目は君の姿を探している。

 見つけた。
講堂の前の方で数人の女の子グループと楽しそうにお喋りしている。

 僕はそれとなく、近くの空席に友人と並んで座った。断片的にだけど話の内容も聞こえて来た。どうやら、新しい化粧品と週末の旅行の計画が話題だったらしい。

 僕はそんな君の笑顔を、誰かと楽しそうに話している君の笑顔を見ると、なんだか胸が苦しいような、切ないような、どこか痛いような気がする。男とではなく女同士だから嫉妬なんかじゃないとは思うけど。胸がざわつく。


 講義までは時間もまだあり、空席が目立つ。だからこそ、余計に僕の目は君に釘付けになってしまう。お喋りしながら見せる君のその笑顔がたまらなく可愛くて愛しく思える。

 大好きだ。君が大好きだ。
ずっとずっと大好きで、今この瞬間も大好きでどうにもならないくらいに。

 だけど、入学してもう半年が過ぎようとする今でも想いだけが募るばかりで打ち明ける事など出来ない。ましてや話した事すらない。

 そして、この想いは誰も知らない。隣に座る友人ですら知らないし、話そうとも思わない。と言うよりも、冷やかされるだけだろうし、万が一君の耳に入ってしまうかも知れないのが怖くて誰にも言えない。

 いつか、君にこの気持ちを伝えられる日が来るのだろうか。「好きです」と言える日が。いやいや、一緒に笑い合える日… いや、高望みはしない。せめて普通に話せるだけでいいや。
今はまだそれ位で十分だ。



絹革音扇 ( 2014/01/10(金) 12:58 )