Mistakeなラブレター
01
【倉井優一〈あおいゆういち〉君 あなたの事が大好きです ずっとずっと一諸にいたいです】


 私は月明かりに照らさるジャングルジムの頂上で白い便箋にそう綴った。

 でも…差出人である自分の名前は書かない。

 出すつもりもなく、出せるはずもない手紙だから。


 優一は私の幼馴染み。何年もずっとそばにいたけど今さら好きだなんか言えない。


 私はため息をつき便箋を紙飛行機にした。

 そして、そっと夜空に投げ放った。私の想いを乗せた紙飛行機は夜風に揺られ飛んでゆく。

 夜を切り裂くように、淡い想いを断ち切るように。


 そんなふうに遥か彼方まで飛んでゆくと思ってた。






 翌日の下校途中、偶然にも優一と出会ってしまった。

「あれ、優一いま帰りなの?」

 私は明るくいつも通り振る舞う。特に優一の前では。

「おぉ、ちょい遅くなってよ。」

「あ、そうだ。これ見てくれよ」

 そう言って優一が取り出したのは見覚えのある便箋の紙飛行機。


 私は驚きのあまり口から心臓が飛び出るかと思った。

「どうしたのそれ?」

 動揺を気取られないよう冷静を装って問い掛けた。

「今朝、道で拾ったんよ。何かのイタズラかな?」

 そう言って優一は首を捻った。


 よりによって本人に拾われるなんて…… ついてないにもほどがある。

 私は自分の運を恨んだ。


「やったじゃない!愛のメッセージだよ優一」

「いやいや、大事な差出人がないだろ」

「でも、今時ないよラブレターなんてさ。きっと可愛い娘だよ。付き合っちゃえば」

 私は顔を見せない様に先を歩く。

「…………」

 急に黙り込む優一が気になって振り返った。

「いや〜。俺さ…好きなやついるんだよな」

 優一は頭を掻いて呟き空を見上げた。

 困った時にみせる優一の癖だ。



 そうなんだ…好きな人いるんだ…


「へ〜誰?あ、1組の茉夏ちゃん?それとも2年の高柳先輩?優一って年上好きだったよね」

 私は胸にポッカリと空いた隙間を埋めるかの様に、努めて陽気に話した。

「誰だよそれ?ってかいつの話だよ」

「だったら一回会ってみたら?その手紙の娘と」

 私がそう笑い掛ければ、優一が表情を曇らせた。

「…………」

 また黙り込み、私をじっと見つめる。

 私の心が高鳴った。人生で一番高鳴った。


「これさ……書いたの、お前だろ?ゆりあ」

 優一が目線を外さずそう言った。

「な、なに言ってんのよ。そんなわけないでしょ」

 必死に否定するも、顔は引きつっていたと思う。


 すると、優一はため息をついて私の目の前に便箋を広げた。

「よく見ろよ」

 私は便箋を何度も見返した。名前は書いてないし、字もバレない様に注意して書いた。私が書いたという証拠は全くなかった。

「なにもないじゃない!」

 私は自信を持って強気に言った。

 優一は呆れた様に2度目のため息をつき、「名前のとこ」とだけ言った。


 私は"倉井優一君"と書かれたその字をじっと見た。

 そして、「あっ!」と声を上げてしまった。

「俺、"倉"井じゃなくて"蒼"井なんだけど」

 私は顔から火が出そうになった。

「それとな、いっしょの"しょ"は言偏じゃなくて糸偏に者だからな」

「まだ直らないのかよ」

 そう言ってケタケタ笑った。

「好きな男の字間違えんのなんて、世界探してもお前ぐらいだな」


 私は恥ずかしさの余りに泣き出しそうになるのを堪えた。


 すると優一はポツリと

「その……手紙の娘と…付き合ってみよっかな」

 私は顔を上げ、優一を見た。


 照れくさそうに笑う優一の頭上に一番星が煌めいていた。




その時から2人は幼馴染みじゃなくなった







■筆者メッセージ
あっちの作品が佳境なのに何やってんだろうな……


帰省中に親戚の子の漢字の宿題を見て思いついたので書いちゃいました

好きな男の名前を間違えるほどのアホな娘……
キライじゃないですね(笑)


絹革音扇 ( 2014/01/04(土) 02:05 )