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朱里がオレの少し後ろを歩く。2人とも荷物も持っているため手は繋いでいないが彼女の発するヒールのコツコツという規則正しい足音が張り詰めた冬の夜空の下に響いていた。
彼女も家に来るのは初めてではないし、オカンにもこれまで何度も会っている。と言うかオカンとも姉ちゃんともかなり仲が良く、オレ抜きでガールズトークをしているのも何度か見たことがある。
その為、彼女が黙りこくっているのは緊張しているからではなく、全てを理解しているからだとオレは解釈した。
「ま、上がってや」
玄関を開け、彼女を促す。
「…今日は誰もおらんの?」
「ん〜、親父は仕事で缶詰状態、オカンは婆ちゃんとこ、んで…姉ちゃんはよう知らんわ」
「イヤか?」
少し意地の悪い笑みを浮かべながら彼女に尋ねた。
「ううん…イヤちゃうよ…」
表情までは見えなかったが彼女の声色からは不快感等は感じられなかった。
2階の自室に彼女を招き入れる。
「そや、なんか観る?明日返さなあかんねん」
レンタルショップで借りてきたDVDを指差した。
「え?…あぁ、えっと…… これ!これ観よう」
面食らった様だったがすぐに切り替え、1枚のDVDを選んだ。
「ん?ええの選ぶな〜」
ベッドに並んで腰掛けプレーヤーにDVDをセットし再生ボタンを押した。
映画が終盤に差し掛かり、徐々に彼女が近付いて来る。
「……!」
ふいに彼女がオレの肩に頭を乗せてきた。一瞬驚いたがすぐにその頭に自分の頭を重ねた。
映画が終わりエンドロールが流れる画面を消した。静かになった部屋は時計の針の音だけが聞こえている。
彼女と目が合った。
オレは彼女の肩を掴みベッドに優しく寝かせた。
顔と顔が近付き触れ合う直前に彼女が声を上げた。
「あ…… ちょっと待って…」
「ん?」
「えっと……… 電気…消して… 恥ずかしいから…」
「あ…うん!わかった」
照明の消えた部屋は外からの自然な明かりで照らさている。