星に願いを
04 転
 私の前にマクハリが現れてから3ヶ月余りが過ぎようとしていた。

『最近、慌ただしいな』

「うん!これから歌番組の収録にアンダー出演するの」

『あんだー?』

「えっと…… 元々の人の代わりに出るってことよ」

『……なるほどな。お情けと言う訳か』

「まぁ、そうかな」

 3ヶ月一緒にいて、官能小説にも暴言にも慣れだした私は笑顔でスルーする事を覚えた。

 それにマクハリの言う通り最近は仕事が少しずつ増え始めている。劇場公演や歌番組のアンダー、ラジオ、さらには一人ではないけれどバラエティーへの出演など目に見えてメディア露出が多くなっていた。

(ここのまま次のシングルでは選抜入りしたりして)

 そんな淡い妄想を膨らませ駅へと歩き出す。



「ねぇ、マクハリ?」

 最近のマクハリは外出すれば頻繁に指を鳴らしている。

『……なんだ』

「さっきも指鳴らしてたけど、最近多くない?」

 気になってたまらず尋ねてみた。

『あぁ……最近、後をうろつく者がいてな。我輩の姿は無論見えぬがいささか目障りで仕方がない。故に天罰を下している』

「それって……」

 週刊誌の記者?ついに私も標的になったの?認められたみたいで少し嬉しくなった。

「なにをしたの?」

 逸る気持ちを抑え詳しく聞いてみる。

『なに……簡単なことよ。バイクを突っ込ませただけだ』

「……!」

『……冗談だ』

 絶句する私を見て笑っているその顔から伺い取れる表情は冗談とは思えない程の冷徹な眼差しで、私は始めて底知れぬ恐怖を覚えた。







 生放送の番組を終え、夜の街を歩き家路へ就く。

 途中、前から3人組の男とすれ違った。その数秒後、3人の内の1人が私に気付いた。

「…今のAKBじゃね」
「マジで!鬼アチィ」
「一人か?」

 なんとなく、身の危険を感じ足早に過ぎ去ろうとしたが追いつかれてしまった。

「ちょっと待ってよ」

 1人が私の手を掴んだ。

「止めて下さい!」

 咄嗟の出来事に上手く声が出なかった。

「怪我はしたくないだろ」

 もう1人が私のすぐ後ろに立ち銀色の何かを首筋に当てがった。その言葉と冷たい物体の恐怖に身体から力が抜けていく気がした。

「そうそう、大人しくしてりゃ痛い目に合わねぇって」
「ハハッ、痛いのは最初だけだからよ」

 そのまま、路地裏に手を引かれていく。

「おい!ちゃんとお宝映像録っとけよ」
「わーってるって」
「それじゃ…」

(イヤ…)

 後ろから私を羽交い締めにする

(助けてよ)

 前からは服に手を伸ばす

(助けて マクハリ)

『……仕方あるまい。力を抜け』

 その言葉に従った瞬間不思議な感覚に陥った。







『汝らに問う』

「あ?」

『即刻立ち去るかに裁かれるかを選べ』

「はぁ?何言っ……」

 前の男は数メートル蹴り飛ばされた

「な…」

 後ろの男は足を踏まれ顎に肘を喰らう

『返答が遅い…つまり後者と言う訳か』

 後ろの男が立ち上がり殴りかかるが、その手をいなされ鼻に肘を入れられる

「アァァァァ」

『鼻が折れただけであろう?がなるな』

 蹴り飛ばされた男も立ち上がろうとするが、一息に距離を詰められこめかみを蹴り抜かれる

『お前はどうなりたい』

「……」

 仰向けに倒れ気を失う男に近付き生殖器を全体重を乗せ踏みつけた

『我輩の言葉に答えぬか』

 男は血の泡を噴き意識を失った

『さてと』

「く、来るな!来るなよ!」

 動画を撮っていた男が震える手でナイフを振り回す

「な、なんなんだよお前」

 ナイフは紙一重で躱され続け捕らえる事はない

『そんな物で殺すつもりなら刺さぬか。たわけが』

 振り下ろされた腕に軽く手がぶつかり、男の腕は可動範囲を越えあらぬ方向へ曲がった

『だらしない。肘が砕けた位で喚き散らすな』

 膝を付き泣き喚く男の肩を掴み言い聞かす

『さっさとそこのを連れて立ち去れ』

 男たちは小刻みに首を縦に振り走り去った

『ふん、他愛ない』











 急に不思議な感覚が終わり身体に激痛が走る。

「あれ?……!…マクハリ、あんた何したのよ?」

『何したとは?』

「体中が痛いのよ」

『貴様の体を借りただけだ。やはり、人間の体は動きにくい。不便極まりないな』

 ストレッチをする様に首を回しマクハリはさらりと答えた。

『助けを請うたのは誰だ?礼を言われても文句を言われる筋合いは無いと思うが?』

 文句を言おうと近付く私の頭を掴み言い放たれた。

「う……」

 正論過ぎて何も返せない。

『違うか?』

「…ありがとう」

『聞こえぬな』

「ありがとうございました!」

 私は大声で礼を言い、すぐに歩き出した。








■筆者メッセージ
まずはアホほど長くなった事を謝ります。すみませんでした

短篇と謳いながらのこの長さ… もう一作の長篇よりも長いって…


絹革音扇 ( 2013/12/18(水) 01:28 )