掌編小説集 - 都市伝説
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 嬉しかった。泣きたくなるほどに嬉しかった。

「昔さ、化学薬品工場の爆発事故って覚えてるか?」

 オレは無言で頷いた。おぼろ気ながらニュースで見たのを憶えている。

「あれに巻き込まれた」

 玉藻はどうでもいいと言う風な顔でフッと煙を吐いた。

「親父がそこで働いててさ、弁当を届けに行った時に爆発に巻き込まれた」

 淡々と話す玉藻が少し痛々しかった。

「デカい音がしてさ、何の音なのか考える暇もないうちに足が吹っ飛んで、何かの破片が目に刺さった」

 玉藻はそこまで言うと一度オレを見た。唇が震えているように見えたのは気のせいだろうか。すぐに目を逸らしたが、オレは唇を見続けていた。

「親父はその爆発で死んだ。で、あたしは手術して、義足と義眼になった。目の色は元々のものだ。色素欠乏症ってやつ」

 やっぱり震えている。唇だけではなく全身が小刻みに震えている。強がってはいるがやはり思い出すのは辛いのだろう。


 オレは玉藻の右手を握りしめた。もう震えを隠そうとはしていない。

 こんなに素直な玉藻を見たのは初めてで、愛しいと思ったのも初めてだった。

 オレは玉藻の両手をしっかりと握りしめた。

(タケル・・・お前は間違ってたよ。玉藻は危険だから止めとけって言ってたけど、こんなにいい女は他にいねぇぞ)

 オレはもう玉藻を好きになっていた。と言うより多分、初めから。映像を見た、あの瞬間から。

「だから、あたしさ・・・」

「いつなにかの症状が出るかも解らないし急に死ぬかも知れない」

「でも・・・もしそれを言ってしまったら、もうお前が帰ってしまうかも知れないって思って・・・」

 オレは握っていた両手を自分に引き寄せた。

「足も、目も、色もないあたしだけど・・・」

「解ってるから。もう黙れ」

 オレは自分の唇を震える玉藻の唇に押し付けた。





■筆者メッセージ
さてさて、そろそろ終盤です。
玉藻の予想がちょいちょい出てますが…正解はまだですね。
絹革音扇 ( 2014/07/23(水) 22:28 )