都市伝説
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「ムリするなよ」

 恐ろしく妖艶な声で玉藻は言った。

「・・・やなこった」

 あれだけ肉欲を感じていたのに何故拒否したのか自分でも解らない。

 冷や汗の球が額から頬、そして顎先へと伝う。それでもオレは玉藻から目を逸らさないでいる。

 突然、フッと楽になった。オレは一息に肺に溜め込んだ息を吐き出す。完全にこの女におちょくられてる。それと同時にハマってる。

「お前、おもしれぇな」

「あんたこそ」

 オレ達はニヤリと笑い合い、この日から友達になった。

 友達という表現はおかしいかもしれないが、恋人ではないのだから仕方がない。




 それから何日か経ったがオレ達の関係は変わらなかった。

 玉藻はあの目でおちょくり、オレはひたすら耐える。独占欲も肉欲も相変わらずだったが、実際に玉藻を抱く気にはどうしてもなれなかった。神聖なものとして崇めてしまっていたのかも知れない。

「あんた、何者なんだよ」

 幾度と無くこの質問をしているが、何故かいつもはぐらかされてしまう。

 それでも、最近は玉藻が笑ってくれるようになった。悪戯っ子の笑顔でも嘲笑でもない、無邪気な女神のような笑顔を。

 その笑顔を見るだけで、全てがどうでもよく思えてくる。

「あたしは・・・」

 答えてくれるのだろうか。玉藻は本当に気まぐれでオレを弄ぶ野良猫のような女。

 女神の玉藻と野良猫の玉藻。オレはどちらも好きだった。



「別に何者でもない。お前と同じただの人間」

「そうは見えねぇけどな」

「じゃ何に見えんだよ。宇宙人か」

「それはねぇけど」

「あたしのどこを見て人間じゃねぇって言ってんだ?」


 玉藻は煙草に火を点ける。今までは女が煙草を吸っているのを見るのは嫌いだったが、玉藻が煙草を吸う姿はいつまでも見ていたいと思うほどに画になっていた。

「目・・・かな」

「だからこれはガキの頃からだから仕方ないっての」

 玉藻は面倒臭そうにため息と一緒に煙を吐いた。

「だったら・・・あんたのその目と足の事、教えてくれ」

 玉藻の手が一瞬止まった。怒るかも知れないとも思ったが、『言いたくないなら言わなくていい』なんて男前の事を言うつもりはさらさらない。

(知りたい。玉藻の全てを)

「まぁ、お前になら話してもいいか・・・」

 吸っていた煙草の火を義足に押し付け呟いた。




絹革音扇 ( 2014/07/23(水) 22:11 )