09 9
「あんた、なんなんだ?」
恐怖から出た言葉ではない。それを感じ取ったのか玉藻の返答も簡単なものだった。
「別になんでもないさ」
そう言いながら次の煙草に火を点ける。どうやらかなりのヘビースモーカーらしい。
「ありゃ魔法か?」
真顔でそう言ったオレがよっぽど可笑しかったのだろう、玉藻は一瞬、ポカンとした後に嘲るような含んだ笑い方をした。
「んなわけねぇだろ。よく解んねぇけど、ガキの頃から出来たんだよ。よくそこら辺のおっさんをひっくり返して遊んでた。アイツら、痙攣しながらバッタバッタ倒れてくから面白くてよ」
そう言った玉藻は悪戯っ子の様な表情をしていた。
完全に悪戯の域を超えてはいるが、おっさんの方も快楽を得ている訳だから別に問題もなさそうだ。
「・・・ところでお前はインポか?」
悪戯っ子の表情を引っ込めて急に真剣な表情になった玉藻にドキリとした。発言と表情は不釣り合いな気がしたが何かあるのだろうか。
「違う」
きっぱり否定すると玉藻は悲しそうな嬉しそうなよく解らない表情を作った。
「お前は帰れ。でもコイツは置いていけ」
帰れと言われたのはタケル。コイツと指を差されたのはオレ。何だか勝った気分だ。
のろのろと立ち上がったタケルは青ざめた顔でオレに近付き耳元で囁いた。
「エージやめとけ。今までの女とは違う」
そんな事は元から解っていた。今までの女と同じならこんなに興奮したりしない。こんなに独占欲が生まれるはずもない。
「解ってるさ。けど、止められない」
オレも小さな声で返した。タケルは小さくため息を吐き、フラフラと階段を降りていった。
「なぁ、なんでオレは残ってよかったんだ?」
玉藻はオレの質問を思い切り無視し階段を登り始めた。
「おい、無視すんなよ」
「うっせぇな。黙って付いて来いよ」
口が悪いのも玉藻の魅力だと思う。階段を登り、着いた場所は玉藻が生活している部屋だった。鉄骨やコンクリートが剥き出しの部屋はなんとも玉藻らしい。
「あんな所よりこっちの方が落ち着く」
玉藻は影を宿した表情をした。いろんな顔をする女。やっぱり面白い。
「なんでオレを残した?」
キッチンに向かった玉藻にギリギリ聞こえるくらいの声で言った。
「どうだっていいだろ、そんな事」
玉藻はコーヒーメーカーでコポコポと沸いていたコーヒーを真っ黒のマグカップに淹れ、ブラックのままオレに差し出した。
「気になんねぇ方が変だろ」
玉藻があの目でオレを見つめる。
(ダメだ)
今その目をされたら止まらなくなる。でも・・・
(負けたくない)