掌編小説集 - 都市伝説
08 8
「ちゃんとしゃべれるさ。職場の人間の前では話せないフリしてるけどな」

 玉藻はそう言いながらショートパンツの尻ポケットからくしゃくしゃになった煙草を取り出し口に咥えた。

「なんで・・・?」

 オレが発した時も玉藻は自分の体をまさぐっていた。

「おい、火ぃある?」

 玉藻はオレの質問を無視し、タケルに手を差し出した。

 タケルはおたおたと100円ライターを取り出し煙草に火を点けた。肩を並べた2人に身長差はほとんどない。むしろ、タケルの方が少し低いのではないだろうか。

 玉藻は思い切り煙を吸い込み、吐き出した。実に旨そうに煙草を吸う女だ。

「だってよ、おっさんとかうるせぇ女と会話すんのめんどくせぇだろ」

 それが自分の質問に対する答えだと理解するのに少しだけ時間がかかった。

「そんだけ?」

「悪りぃかよ」

 玉藻の反応にオレは笑いたくなった。

 この反抗的な態度、荒い言葉遣い、人を嘲るような笑み。オレは益々この女を手に入れたいと思った。

「いいや。悪くないな」

 オレが笑いながらそう言ったことにタケルは不思議そうな顔を見せた。タケルはまだ玉藻に対して恐怖と不安を感じているらしい。

「ここに住んでるのか?」

 何か言って欲しげなタケルを横目にオレは問い掛けた。

「まぁ、その牢屋に住んでる訳じゃねぇけど。この上の階に住んでる」

「許可取ってんのか?」

「誰にだよ」

 思わずオレは笑った。

(この女、面白い)

 オレのほくそ笑んだ顔を見た玉藻は目を細め煙草を咥えたままオレ達に近付いた。

 オレの目の前に立った時、あの映像の中の破壊的な色気を放つ女になっていた。

 また背中がゾクリとした。

(睨み殺される)

 睨まれているわけではなく、ただ見つめられているだけなのにそう思わせるほどの眼力だ。

 人差し指と中指で煙草を挟み、ピンと跳ね飛ばす。煙草は綺麗な放物線を描き一斗缶に落ちる。そうする間も玉藻はオレ達を見つめ続けている。

「うぅっ・・・」

 タケルは呻き声を漏らし、その場に膝から崩れ落ちた。


 タケルは射精していた。


 玉藻はオレ達からすっと目を逸らした。途端に体から力が抜けた。金縛りが解けた時のように。

「お前、ダメダメだな」

 玉藻はタケルと同じ目線になる様にしゃがみ込みながら、タケルにデコピンを食らわせたが放心状態のタケルは無反応。

 それを見た玉藻はケタケタと笑い出した。






絹革音扇 ( 2014/07/21(月) 12:45 )