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オレ達はパン工場の隣の廃屋の前にやってきた。遊び場にしていた頃と何ら変わら無いように思える。薄い鉄板で出来た頼りない階段は一段上がる度にギシギシと音をあげ、オレ達の不安を煽る。
2階は薄暗くてよく見えないが、何か特別な物があるようには思えなく、人の気配も全くないので、もう1つ上の階へと歩を進めた。
3階は2階とは違った明るさがあった。そして、部屋の真ん中のバカでかい鉄格子が。
(やっぱりここだ)
誰もいないが、確かにあの映像に映っていた場所だ。よく見ると、コンクリートの床には白いシミが多数あった。誰かの精液だろう。
セットと精液の跡はあったものの、人は誰もおらずオレもタケルも正直ホッとした。
玉藻に対する独占欲はまだまだ溢れていたが、彼女を目の前にして冷静に話をする自信はなかった。
俺は牢屋のセットに近付いた。その中に飼われていた玉藻を想像しながら鉄格子の前に立つ。
タケルは俺の様子をぼんやりと眺めている。セットにはあまり興味がないのだろうか。
鉄格子を掴むと、あの映像が頭に勝手に流れてきた。
(玉藻・・・オレの所に来い)
恐怖を感じながらもオレは玉藻を求めていた。
その時、入り口の方からコンコンと音がした。
オレもタケルも飛び上がる勢いで音が鳴った方を確認した。
そこで目に入ってきたものは玉藻だった。
オレは目を疑った。
義足で恐ろしく暴力的で妖艶な女が、映像を見た後にしばらく動けなくなるほどに神秘的な白い女が、オレ達の目の前にいる。
玉藻は少し不機嫌そうな顔でオレ達をじっと見つめていた。
ゾッとした。美しさのあまりに全身が粟立ったのは生まれて初めてだった。
「なぁ、エージ・・・俺、大丈夫だ」
空気の読めないタケルがアホみたいな声で言った。
「はぁ?何が?」
多分、オレはイラついた声を出したと思う。
「勃たねぇ」
確かに、オレ達は玉藻に見つめられているが、性的な興奮は感じなかった。
ふっと笑い声が聞こえた。
「こっちにその気がねぇからな」
そう言ったのは、玉藻だ。
「お前らが初めてだよ。こんなトコまで来たのはな」
玉藻の声は想像よりも低いがとても透明感のある声だった。
「おい、お前。なんか言いたそうだな」
玉藻はバカにしたような笑みを浮かべながらオレにそう言った。
高飛車な態度を取られても何故か怒りは湧かなかった。
「あんた・・・口がきけるのか?」
あのメイキングの中で一切言葉を発しなかったから玉藻は話が出来ないものだと思い込んでいた。だからこそ感じた違和感。