06 6
『お疲れ様でーす』
元気のいい女の声が聞こえた。玉藻ではなくキャップを被った女だ。キャップの女は紙コップを持って玉藻に近付く。
(なんだ?メイキングか?)
突然の映像に虚を突かれた。
玉藻はキャップの女から紙コップを受け取り、コクリと頷いた。
(この女、ひょっとして・・・)
『おい玉藻、本当にもうやらないのか?』
そう言いながら画面の手前から映り込んだのは、太った中年の男だった。玉藻よりも背が低い。
『それだけのもん持ってるんだ。もったいないぞ』
男は玉藻の全身を舐め回す様に見つめた。ただ、出来るだけ目は見ないようにしているらしい。
玉藻は真一文字に口を閉じたまま何も言わない。
『お前に出来る仕事なんて、コレしかないだろ?』
男は嘲る様に言葉を吐いた。玉藻はキッと男を睨みつける。その鋭い目にも見とれてしまう。
玉藻は男に近付き、男を殴った。平手ではなく拳で。
玉藻は吹っ飛んだ男を容赦なく踏みつけた。それも、義足の方で。
キャップの女が慌てて止めに入る。
『玉藻さん!落ち着いて下さい!』
どう見ても玉藻は落ち着き払っている。取り乱しているのはキャップの女だ。
仕方なしというように玉藻は男から離れた。
その時。
チャイムの様な音が鳴り響いた。学校のものよりは少し低音で、メロディも違っている。
「おい、これって・・・」
やっと声を出すことが出来るようになったオレは、いやオレ達はこの音の正体を知っていた。
「あぁ・・・」
この音は、パン工場で働く従業員たちに昼休憩を知らせるチャイムの音。オレ達がまだガキの頃に遊び場にしていた廃屋隣のパン工場。
玉藻がいた牢屋は、あの廃屋に作られたセットなのではないか。オレの心臓は飛び出すんじゃないかと思うほど激しく動いた。
動揺と期待。
「行って・・・みるか・・・?」
タケルは恐る恐るそう言った。もしそこに玉藻がいたら?たぶん、逃げることしか出来ないだろう。
(でも・・・)
「行こう」
自分の正直な願望には勝てない。恐怖や不安を感じてはいたが、最終的に勝ったのは欲望。
(玉藻に会いたい)
オレは完全に玉藻に落とされていた。今までそれほど感じていなかった肉欲を玉藻に対しては全身から溢れ出すくらい感じていた。
(この女に触れたい。抱きたい。ものにしたい)
そんな事を思った事は、もちろん今までに一度もなかった。
「立てよ。行くぞ」
タケルの目は血走っている。こいつも完全に魅了されていた。
一気に闘争心が湧き上がった。
(玉藻は誰にも渡さない)
そう思ったのはタケルも同じだったかもしれない。