掌編小説集 - 都市伝説
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 やってきたのはオレの家。実家暮らしのタケルと違い一人暮らしだからか、よく仲間内の溜まり場になっている。

 借りてきたDVDをさっそくプレーヤーにセットする。ジジジッと耳障りな音で読み込んでいる数秒間、真っ黒な画面に変化はない。

 次の瞬間、乾いた砂が鉄の上を走るようなカサカサした音が鳴り、画面上に映し出された1人の女。

(あれが玉藻・・・)

 古い牢屋の様な場所に胡座をかいた姿勢で俯き、少し猫背気味の背中には汚れた布を羽織っている。

 髪は長く薄い金髪。表情はまだ見えない。ショートパンツから見える真っ白の艶めかしい脚には、だらしなく腕が乗っかっている。

(ん?)

 その脚に違和感を覚えた。何かの金属で出来た義足。人工の皮膚で隠そうとしない。剥き出しの鉄の足。

 それが余計に玉藻を暴力的に見せ、興奮した。それは隣にいるタケルも同じらしく、ゴクッと生唾を飲み込む音が聞こえた。


 コツコツと靴音がした。誰かが玉藻に近付いてくる。画面には看守の格好をした大きな男が映し出された。男は鉄格子越しに玉藻の前に祈りを捧げるように座り込んだ。

『玉藻・・・』

 欲望をたっぷり含んだねっとりとした声に玉藻はゆっくりと顔を上げた。

「えっ?マジか・・・」

 タケルがそう言ったのは、玉藻の目が画面にいっぱいに広がり、見つめられた瞬間だ。

 隣から荒い息遣いを感じたがオレは目もくれない。たぶんウワサ通りに勃起したのだろう。

(そんな事どうでもいい)

 画面に映る玉藻の目から目を逸らせない。

(どうなってんだ?なんなんだ、これは?)

 画面の中の男は玉藻に見つめられ射精した後すぐに気を失った。俺には解る。これは演技じゃないと。

 玉藻はもう一度カメラ越しにオレ達を見つめた。

 色素の薄い瞳。一見しただけでは解らないが、よく見て解った。彼女の右目は義眼。

 義眼と義足のAV女優。



 映像はそこで途切れ、画面は砂嵐になった。オレもタケルも動けない。声すら出せない。ただ玉藻の残像を砂嵐に重ねていた。

 結局、オレは勃起しなかった。あの有り得ないくらいに神秘的で妖艶な玉藻を見ながら自分の欲望を満たすと言うことは玉藻を汚すような気がしてただ魅入る事しか出来なかった。

 数分間その状態が続いた。オレは飽きることなく、何も映さない画面を見つめていた。

 すると、ぱっと砂嵐が消えた。









絹革音扇 ( 2014/07/18(金) 00:18 )