都市伝説
04 4
 コパの薄汚れたドアの前に立った。これまでにないくらいに緊張している。

 ここに来るまでは卑猥な好奇心の域だった。だが今は危険区域に足を踏み入れている様な気がしてならない。玉藻に近づくにつれ、何か得体の知れないモノに飲み込まれるのではないかと思い始めていた。

(どうしたんだ。ただのAVだろう?何をビビってんだ)

 隣のタケルを見るとオレと同じ様に緊張しているようだった。

「なんか、怖いな」

 オレと違ってタケルは感情を隠そうとしない。今回ばかりはオレも同調し頷いてドアを引き、店の一番奥へと真っ直ぐに向かった。

 コパはただのレンタルビデオショップではない。早い話、裏ビデオ専門店。レンタルもしているが、基本的にはセルがメインだった。吐き気を催すようなタイトルとジャケット写真がズラリと並んでいる。下品で陳腐で実にくだらない。

 そんな陳列棚の間をすり抜けながらある疑問が浮かんだ。

(まだ置いてあるのか?)

 あのブログの記事が書かれた日付は4年ほど前。その存在すら怪しく思える。


 そんな中でオレの視界にビシッと入ってきたDVD。

 赤いジャケットに白文字。

―玉藻―

「おい、マジであったぞ」

「あぁ・・・」

 奇跡的にレンタルもされておらず1枚だけ置かれていた。

「え?ど、どうしよう?」

 手に取ったタケルは動揺している。

「観よう」

 オレは強めの口調で強引にタケルをレジに連れて行った。

「いらっしゃいませ」

 ひげを生やした店員が低い声で言った。店員はカウンターに置かれたDVDに目線を落とした後にオレ達を見た。

「・・・300円になります」

 特に何も言わない。本当は言いたい事があるくせに何も言わない。それがやけに気になる。

 タケルは丁度の代金をカウンターに乗せた。

「返却日は一週間後です。ありがとうございました」

 最後まで何も言わない店員を睨みつけ、店を出ようとした瞬間。

「・・・それ、気を付けた方がいいですよ」

 何か聞こえた気がして、振り返り店員を見た。が、店員は次の接客に取り掛かっていた。

(意外に繁盛してんじゃねぇよ)

 意味不明の怒りが込み上げる。

 どうやらタケルには聞こえていなかったみたいで、早くも店の外に出ようとしていた。

 さっきの忠告は幻聴だという決め込み、小走りでタケルの後を追った。






絹革音扇 ( 2014/07/15(火) 23:40 )