01
彼ら夫婦には子供がいなかった。だから、その寝室には二人しかいない。はずだった。
と言うのは、もう一人誰かがいるからだ。ちょうど妻の足下、ベッドの端に誰かがいる。
時計の短針ももう頂点を越している。そこに誰かいると言うのは極めておかしい。そもそも、夫婦の親友としても寝室のそれもベッドの端にいる事などまずあり得ない。
では、誰なのだろう?
長髪でワンピースのような真っ白な衣服を纏い、屈みながら妻を見ている。
「う、うぅん」
もうすぐ嫌いな季節、冬がやって来る。寒さのせいか、それとも乾燥した空気に喉が渇いたのか、妻の眠りは徐々に浅くなっていく。それに伴い、右左に寝返りを打つ回数が増え、やがて目を覚ました。
「喉が渇いたな・・・」
ゆっくりと起き上がった。が、その動きは途中で止まった。
「だ、誰かいるの?」
血の気が引いていくのが解る。いる。隣にいる夫以外の誰かが、自分の足下にいるのだ。
「だ、誰?」
「・・・・・・」
問いかけには何も答えない。
目が悪いから、はっきりとは見えないが、どうやら女。
「誰なのよ・・・」
声が震える。隣にいる夫を見たが、疲れているのだろうか。妻の様子にまるで気がつかず、深い眠りに落ちたまま。それでも何とか起こそうと試みるが、体が恐怖で動かない。夫との間のたった数十センチの距離がもどかしい。
「ねぇ、誰なの?」
「・・・・・・」
やはり返事がない。
ここで彼女は思い出した。まだ子供の頃の話だ。当時から目が悪い彼女は、やはり今日のように深夜に目を覚ました。そして、今日と同じように見てはいけないものを見て狼狽えた。しかし、実際には、その恐怖の主は単なる壁に掛けたコートだった。その後、数ヶ月は家族の間でちょっとした笑い話になっていた。
「なんだ・・・ただの見間違いか・・・・・・」
自分を納得させる様に独り言を言った。
その時だ。どこからか声が聞こえた。
「見てるだけぇ」
それは、恨み辛みがこもった様な、恐怖を骨の髓から呼び覚ます様な声。そんな声で、妻に話しかけた。
妻は叫んだ。