紅い眼
05 四 -水面に揺れる眼-
7月27日

 火野と山名。知り合い2人の事故から三日が過ぎた。

 オレはなんとなく夏に似つかない重苦しい気分を晴らそうと釣りへと出掛けた。唯一の趣味であるルアー釣りに。

 事故現場の山道の途中に"ひょうたん池"という呼ばれる小さな野池があった。池の周囲はまだ整備もされておらず、木々や背の高い雑草が鬱蒼と生い茂り、自然が残っていて釣りをしていてかなり気持ちの良い言うなれば穴場スポットだった。

 オレは落ち込んでいる林田も誘ってやろうと思ったが、あの日以来部屋に閉じこもっていて声を掛けるのも躊躇うほどだった。

 親友を失ったのだから仕方ないと思い、夕方に一人原付で池に向かった。

 ブラックバスという魚は陽が落ちた後の夕方や陽が昇る前の早朝がよく釣れる。オレの場合は、朝に起きれないのでいつも夕方から夜にかけてが釣りのゴールデンタイムだった。

 竿を垂らしながらオレは、事故の後に聞いた"ウワサ"を思い出した。

 なんでも、火野と山名の2人は事故の数日前にこの山をバイクで走っている時に木々の間に白いワンピースの少女を見かけたと周りに話していたらしい。そして、2人はその白い少女に呪われたのだと・・・・・・

 そんなバカバカしい事を考えていると、連なった草叢の間から不気味な動物の声や何かが動く気配を感じた。夕方から夜に変わるなんとなく気持ち悪い時間帯だった。

(そろそろ帰るか・・・)

 そう考え始めたその時、ジュボッ!というバス特有のバキューム音と共にルアーが水中に沈んだ。

(来た!)

 今までのバスとはサイズが違う手応えを感じ忍び寄る恐怖を忘れ素直に喜んだ。

 数分間のやり取りの果てにその大きなバスは岸際の足元まで寄って来た。が、とてもそのまま抜き上げられるサイズではなかった。

 手でキャッチしようとしてハンドランディングの態勢をとった。バスはもう暴れていなかった。

(今だっ!)

 左手で竿を持ち右手を水面に差し出したその刹那・・・・・・

 雪の様に真っ白な女の子の手みたいなモノがいきなり水面から出てきてオレの手を掴んだ。その子の顔は明らかに水面にあったが、口角を吊り上げてニタリと不気味に嗤っていた。

 その顔は真っ白だったが眼だけは血のように紅くこの世のものではないほどに怖ろしい形相だった。

 その紅い眼を見た瞬間、オレはそのまま水の中に引きずり込まれた。

 何処までも何処までも沈められていく様な恐ろしい感覚・・・・・・

(い、息が・・・。殺される・・・・・・)

 本能的にそう思った時、何者かに体を引っ張り上げられた。

 オレは岸の上に倒れて水を吐きながら助けてくれた人のほうを見た。

 林田だった。

 オレは偶然にも、バス釣りにやって来た林田に抱えられ水中から助け出されたのだった。

 林田曰く

「お前がランディングしようとしているのが見えた。そやけど、そのまま1分くらいじぃーっと止まってそのまま自分から飛び込むようにして水に入った」

 とのことだったが、オレが見た少女に関しては、

「そんなもんは見てへん」

 と言った。




 原付に乗りながらオレは考えた。

(あの子は何者なんだろう)

 あの金縛りにあった夜に見た"あれ"と同じ眼だったようにも思えたが・・・・・・





絹革音扇 ( 2014/03/10(月) 21:02 )