紅い眼
04 三 -病院の廊下-
「俺が病院に着いたら、優子が二階の廊下のソファに座っとった。薄暗い廊下にたった一人でな。その優子の顔つきでヤバい状態なんはすぐわかった。
優子は『手術は終わったけどなんとも言えないって・・・・・・。今はお母さんがついてる』言うてた。俺は優子の横に腰を降ろした。事情を聞いたら、火野はバイク仲間と山道を走っとってカーブでスリップしたらしいんや。頭を強く打って脳内出血もしてて意識がないっていうことや。医者が言うには一応今夜が峠やってことで、俺と優子は病室の外の廊下で火野の意識が戻るのを待つしかなかった。
俺らはあまり話すこともなくてしばらく黙って座ってたけどな、優子が突然階段のほうを見て『あれ・・・?山名くん・・・?』て言うてん。『なんでこっち来ないんだろう?』
一瞬、意味がわからんかったから聞くと『今、あそこの階段のとこから山名くんがいてこっち見てたの。にこっと笑って』って言うねん。山名ってのは火野の昔からのツレでな。二人でようバイク転がしてとってん。俺は階段の方を振り返ったけど山名はおらんかった。
俺は『山名は俺がおるから遠慮したんかな』と思て、階段のとこまで山名を呼びに行ったけど階段には誰もおらんかった。
それに山名は遠慮なんか絶対せぇへんヤツや。俺が可笑しいな思って階段の上り口から優子の方を振り返ったとき、バタンと病室のドアが開いて火野の母親が飛び出してきてん。
顔つきがハンパなかった。
『は、林田くん!先生、先生呼んで来て!早く早くっ!』何が起こったかすぐにわかった俺は大急ぎで一目散にナースステーションに走った。
ちょうど、先生らもこっち向かって来てバタバタ慌ただしく火野の病室に入っていったわ。
しばらくして、俺と優子も病室に呼び入れられた。
火野の顔は土色って言うんかな?これが死んだ人の肌の色や・・・・・・なんとなくそう思った。
火野の母親は火野にすがって号泣していた。優子も火野の名前を呼んですがりついて泣いてた。俺も涙こそ流さんかったけど、ひどいショックを受けた。でも、すぐ山名のことを思い出した。『あいつも呼んだらんと・・・』そう思って廊下に出た。
やっぱり、山名はおらんかったけど、別のバイク仲間がおってな。そいつに『火野が死んでもた・・・。さっき山名も来とったから呼んだってくれんか』って伝えたら、ポカンと口を開けてブルブル震え始めた。
『そ、それ、マジか?ウ、ウソやろ?』
『なんやん?』
『火野の前を走っとって先に事故ったのが山名やぞ。山名は先に死んでる・・・』
『・・・・・・』
そいつの言葉に俺の背筋にものすごい悪寒が走った。正直こんなに震え上がったのは初めてや。
それじゃ、優子が見たのは何やったんや?山名は火野を迎えに来たんか・・・?ってさ」

 林田は一息に話し終えてタバコに火を点けた。ライターを持つ手が小刻みに震えているのがはっきりと解った。

「怖いな・・・」

 オレは林田の青ざめた顔を見ながらそう呟いた。林田は額にビッシリ脂汗を浮かべていた。
「あぁ、怖すぎや。でもな、もっと怖いのは・・・ あの瞬間・・・ちょうど山名が階段からこっちを見てたのを優子が見かけた頃な・・・、意識不明のはずの火野が自分で酸素マスクの挿管チューブを噛み切って死んだってことやわ・・・・・・」

 林田はより真っ青になっていた。おそらくはオレもショックで同じ様な顔色になっていたと思う。




■筆者メッセージ
ちょっと読み辛くないですか?

絹革音扇 ( 2014/03/10(月) 18:54 )