後日談
01
 あの事件から数日経った。



「へい!おまち」

 南と東山は駅前のラーメン屋にいた。

『――B48のメンバー殺害の事件について、どう思われますか?』

 テレビのワイドショーでは連日あの事件が取り沙汰され、コメンテーターが知った風な口調で無責任な事を語っていた。


「また、このニュースっすね……」

 東山も飽々した様に呟いたが、南は事件を頭の中でリフレインした。



―――――――――――――――――――

 南は"撃たれる"と思い目を閉じた。

 銃声が響き渡り、目を開けた南が見たのは脳漿をぶちまけ、今まさに倒れんとする一ノ瀬の姿だった。

 目の前の状況に理解出来ないでいると、何処からか

「確保」

 と言う、北嶺の号令と共に複数の足音が聞こえた。



 上体を起こし座り込む南に北嶺が近付いた。

「無茶をするな南」

「来てくれると思ってましたからね」

 北嶺の言葉に南は笑って返す。


「良くやってくれた」

 北嶺の後ろから眼鏡をかけた男性が歩いて来た。

「上へ行くいい手土産になったではないか北嶺君」

「はい…」

「…ん」

 その男が南に気付いた。

「ほぉ、所轄にも優秀な捜査官がいたのだな。君も良くやってくれた」

「……ありがとうございます」

 話し振りから北嶺より立場が上の者と認識し南も礼を言った。


「人質1名救出しました」

 工場の奥から声がし、その男も頷き出口へと歩いていく。

「人質2名救出、被疑者死亡です」

 その男が歩きながら電話で報告した。

「!」

「ちょっと待って下さい!」

「南…やめろ…」

 南が男を呼び止めようとした。

「被疑者は2名です!内1名が死亡です」

「南!」

 北嶺が南を押さえつけ、制した。

「北嶺さん!事件を、真実を隠蔽するんすか!」

「南!話を聞け…」

「でも」

 反発する南を必死に押さえつけながら北嶺が声を落とし話した。

「…もう彼女たちはただのアイドルグループではないんだ」

「え?」

「中国や東南アジアをはじめとする諸外国への外交の手段なんだ…… もう私個人ではどうする事も出来ない」

「それじゃ……隠蔽を指示してるのは…」

 北嶺は唇を噛み締め、南の服を掴む手も打ち震えていた。


―――――――――――――――――――


「…い!先輩!」

「ん?」

 東山に呼ばれ意識を戻した。

「冷めちゃいますよ、ラーメン」

「…あぁ、食うよ」

 東山に促され南は目の前のラーメンに箸を付けた。


「て言うか先輩、よく丸腰で行きましたね」

 ラーメンを啜りながら東山が尋ねた。

「しょうがないだろ?拳銃携帯命令出てないんだからよ」

「えっ!それは守んすか!?」

「飛ばすな。当たり前だろ?」

 口から飛沫を飛ばし東山が驚いた。

「すんません。でも前に一ノ瀬の家に」

「あのな、捜査にも越えちゃいけないラインってのがあるの」

「わかんないっすよ」

「まだまだ青いね〜坊っちゃんは」

 笑いながらラーメンを食べ、2人は店を出た。


「……先輩?」

「ん〜」

「正義ってなんすかね?」

「はあ?」

 真剣な顔で東山が南に聞いた。

「だって本当は被疑者2名だったんすよ。でも、世間的には一ノ瀬だけが被疑者になってるし…」

「正義ねぇ…」

「…正義なんてもんはさ、人それぞれなんじゃないのか?」

「人それぞれ?」

「そ。何を信じるかとかは人それぞれだろ?だから、俺には俺の、お前にはお前の正義があるんだよ」

「なるほど…」

 南の理想に近い持論に東山が納得しかけた。

「あっ…」

「どうしたんすか?」

 胸ポケットを探りながら南が声を上げた。

「煙草ねぇや。買って来るから先に車回しとけよ」

「そろそろ辞めたらどうすか?」

「辞めない正義だよ」

 そう言って、踏切脇の自販機へと走っていった。






絹革音扇 ( 2014/01/05(日) 17:00 )