終章
01
 劇場から出てきた南たちは満足気な表情で千代田署に戻って来て。

「いや〜、公演最高でしたね!先輩」

「そうだな、想像以上だったな」

 東山はもちろんのこと、南までもがたった一度の公演で彼女たちのステージに魅了されていた。


「あれ?刑事課に戻らないんすか?」

 刑事課を素通りして行く南に東山が声を掛けた。

「あぁ、ちょっと確認したい事があってな」

「…そうだ。東山、帰るなら先に帰ってもいいぞ。もうすることもないしな」

 足を止め振り返り東山に一声付け足した。

「わかりました。お先っす」

 東山の返事にお疲れの意を込め片手を掲げ、捜査本部へと歩を進めた。




「失礼します」

 捜査本部には数える程度の刑事しかおらず、北嶺も地図を拡げたホワイトボードを苦味走った顔で睨み付けていた。

「北嶺さん、ちょっといいですか?」

「南か…どうした?」

「島崎遥香の遺留品を見せてもらいたいんですが…」

 疲れた様子の北嶺に若干の罪悪感に苛まれつつ申し出た。

「遺留品?」

「ええ」

 わずかに眉を顰めたがすぐに部下の一人を呼んだ。

「すまない、島崎遥香の遺留品が見たいそうだ。案内してやってくれ」

「はい。こちらです」

 見るからに東山と同年代であろう若い刑事が南を先導した。

「本件の遺留品等は全てこの部屋に保管されています。私は外におりますので」

「すみません。ありがとうございます」

 押収した証拠や遺留品が保管される部屋で一人になった南は島崎のバックを見つけ、テーブルに置いた。

「失礼します」

 バックに手を会わせ中から彼女の携帯を取り出しフォルダに残る写真を確認した。

「…やっぱりな」

 半ば賭けみたいなものだったが、南の望んだ写真がそこにはあった。

「あの…すみません。PCとプリンター貸してもらえませんか?」

 外に待機している刑事に頼んでみれば、あっさりと快諾され、ほどなくしてPCとプリンターが用意された。

「これでよしと」

 必要な写真をプリントアウトし、バックを元の場所に戻しもう一度合掌し退出した。

「もうよろしいのですか?」

「ええ、もう十分です」

「……あの」

 南はその刑事に疑問を打ち明けようとしたが

「何故ここまでするのか?ですか?」

「…ええ、はい」

 心を見透かされたかの様に言われてしまった。

「北嶺警視正の命というのもありますが、……私は生え抜きじゃないです。元々は所轄の人間ですよ」

「だから、今でも肩身の狭さは感じますし、蔑ろにされることもあります」

「…いずれは、所轄や本庁といったしがらみがなくなればいいと思いますね」

「そうですね…」

 南はその刑事の考えにいたく感銘を受け、同時に深い共感も覚えた。




 捜査本部へ戻った南は北嶺と刑事に礼を言い、さらにとある一枚の写真も借り受けた。






■筆者メッセージ
新年明けましておめでとうございます。

旧年はこんな三流物書きにお付き合い頂きまして誠に感謝しております。

本年もよろしくお願い致します。

絹革音扇 ( 2014/01/01(水) 04:54 )