第三章
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「会議中申し訳ありません。大事な報告がございます」

 一切の迷いも躊躇もなく南は会議中の本部へと足を踏み入れた。

「……会議中と理解した上での報告なのか?」

 北嶺が鋭い目で南を見つめ問いかける。

「はい」

「…聞こう」

 真剣な南の眼差しに北嶺が会議を中断させた。

「ありがとうございます」

「えー、すでに報告があったと思われますが、今朝うちの西尾巡査部長が事故に遭いました」

「我々が捜査した結果、ただの事故でなく、人為的な事故であると判明しました」

「……」

「以上を踏まえた上でこの映像を見ていただきたいと思います」

「映像…?」

 前方のスクリーンに青いつなぎの男が映される。

「これは、署内防犯カメラの映像です。……そして、この男が事故を仕組んだ疑いが極めて高いと思われます」

「………」

「さらに、この男は一昨日の事件現場にもいた事から第1の事件にも関与しているとみています」

「確かに無関係とは考えられないな……」

 南の報告を聞き終えた北嶺がマイクの前に移動した。

「この会議室にいない捜査官も聞いてくれ、本庁警視正の北嶺だ」

「本件はただの事件とは違う。我々警察をも狙った卑劣な犯行だ。皆が狙われる可能性も高い。降りたい者は降りても構わない。責任は私が取ろう」

「……だが、この被疑者だけは警察の威信を賭け何としても捕らえなければならない。……被害者を増やさない為にも事件を早急に終わらせよう。君たちならそれが出来ると私は確信している」

 北嶺の言葉は本庁捜査官だけではなく、南たち所轄の警官にも向けられていた。

「北嶺さん……」

 南とすれ違い様に肩を軽く叩き北嶺が再びテーブルの前に立った。

「何としてもこの男を捜し出すぞ」

 会議室は北嶺の熱い弁舌によりさらに熱気を増していく。

 南もその熱量に感化され己の職務に戻ろうと本部から立ち去った。









「南!」

 会議室から出た南を追いかけて来た北嶺が呼び止めた。

「北嶺さん?」

「……お前の想像した通りだったぞ」

「え?」

 何のことを言われたのかわからない様子の南に北嶺が一枚の紙を渡す。

「これを見ろ。水道メーターを調べた結果、何者かがプールの水を使った形跡があった」

「あ!ありがとうございます。という事は……」

「アドバルーンにプールの水を入れて圧死させたのだろう」

「やっぱり……」

 第2の事件の殺害方法は南の推測通りだった。

「だが南、メーターだけでは証拠としては弱いぞ」

「ええ、わかってます。せめてアドバルーンでも見つかればいいんですけど… さすがに処分されてますよね」

 南が顔を曇らせる。方法が判明しても物証が無ければ意味を成さない。

「他にもアドバルーンまで水を送るホースとかも必要だ。それに、密室もな」

「問題山積みっすね〜」

「まぁ、そう言うな」

「大丈夫ですよ。北嶺さんが信じてくれてんすから、その思い無駄にはしませんって」

 そう言って南は自分の胸を拳で軽く叩いた。

「俺も仕事に戻りますね。北嶺さんも早く戻って下さいよ、大将がいないと上がった士気が下がっちゃいますよ」

「簡単には下がらんさ」

「ですね」

 笑いながら南は駆け出した。北嶺の言う通り最高潮に達した士気は下がったりしないと信じて。





絹革音扇 ( 2013/12/26(木) 03:13 )