第二章
07
「戻りました。……ってあれ?まゆゆは?」

 疲れ切った顔で刑事課に戻って来た東山が取調室を覗き声を上げた。

「第一声がそれかよ……。お疲れさん。渡辺さんならあっち」

 南が労いの言葉をかけ、奥を指差した。

「応接室っすね〜」

 南の指し示した方へ歩いていった東山だったが扉前の西尾に止められた。

「駄目よ。たった今眠ったとこなんだから。……課長も覗かない!」

 ブラインドが降ろされ中が見えない応接室の窓のわずかな隙間から覗き見ようとしていた課長も東山と一緒に叱られた。

「じょ、冗談だよ西尾君」

 ファイティングポーズで扉前で陣取る西尾に課長も後退りをした。署内きっての武闘派の西尾に挑む様なバカは恐らくいない。

「ところで先輩、あの写真は何だったんすか?北嶺警視正もすぐに解ったみたいでしたけど」

「なんだ〜?坊っちゃんは解らず持ってったのか?」

 定位置の窓際のソファでお茶を啜りながら蝶野が東山を冷やかした。

「えっ、皆さん解っているんすか?ズルいっすよ。僕にも教えて下さいよ〜」

 子供かよと思いながらも南が東山を手招きした。

「いいか?例えば、これをクッキーとするぞ」

 テーブルに数本のペンを置き説明をする。

「はい」

「それのどれか一つに砒素を入れたとする」

 一本のペンのキャップを外す。

「で、クッキーをみんなで食べる」

 そう言ってテーブルからペンを手に取っていく南に東山も同様にペンを手にしていき、キャップのとれたペンだけがテーブルに残された。

「うん、これで毒を避けて完食したよな?」

「ええ」

「じゃ、これ見てみな」

 東山にクッキーの写真を差し出した。

「あっ!」

「解ったか?」

「はい!これ……無理っす」

「そう」

 多少の焼き目が付いてるとかの違いはあるけど、外見上での判別は不可能に近い。ましてや、渡辺一緒にも食べてたとなるとこのクッキーで毒を避ける事は難しい。

「それじゃ……犯人はクッキーを食べてない人っすか」

「いんや」

 東山の推理に蝶野が反論を上げる

「食べてないっつう事はよ、楽屋にゃ入ってねぇってこったろ?毒を入れる暇もないだろうよ」

 南も黙って蝶野の意見に頷いてみせた。

「って事は、無差別っすか」

「そうかもな……指原さんが運悪く食べてしまった。もしくは……、何か別の方法で指原さんに毒を盛ったかだな」

「別の方法?」

「えぇ……」

 猪瀬も苦みばしった顔で南に問いかける。

「何すか別の方法って?」

「…………」

「…………」

「知らん」

「へ?」

 持っていたペンをペン立てに戻しながら東山の質問に答える南。

「だってそんなもん。現場もろくに見てないし解らないって。刑事ドラマみたいには、いかないの。北嶺さん達も動いてんだしそれでいいだろ?」

「ても……」

「それにさ、渡辺さんの無実が晴れただけでも良かったじゃないか」

 南が笑みを浮かべ東山の肩を叩いて仮眠室へ向かって行った。





そうして少女達と刑事達との長い長い1日が終わった……







絹革音扇 ( 2013/11/24(日) 01:06 )