04
「私じゃない!私は何もやってない!」
事件のことを掘り返したのがまずかったのか突然、渡辺が大声を上げ取り乱した。
「大丈夫だよ。君が何もやってないのは俺たちもわかってるから落ち着こうよ。ね?」
南が椅子から落ち、床にうずくまる渡辺を諭すように優しく、それでいてはっきりとした言葉で言い聞かせた。
「ハァ……ハァッ、ハァッ……」
「せ、先輩!まゆゆの様子が」
「わかってるって。お前も落ち着け。んで、俺のデスクから書類とか入れる茶封筒持って来な」
息苦しそうにする渡辺を見て狼狽える東山に南が介抱しながら指示を出した。
「茶…?わかりました」
「ゆっく〜り呼吸しようか。大丈夫だからね」
「これっすか?」
すぐに東山が南の言い付け通り茶封筒を手に戻って来た。
「ん。サンキュ」
それを受け取ると、彼女の口に封筒の口を近付けた。
「はい、ゆっく〜り吐いて。はい、吸って〜」
みるみる内に呼吸が落ち着いていく渡辺に東山が声を上げる
「どういう事っすか!?」
「過換気症候群って聞いたことないか?」
「過換気症候群?」
「そ!過呼吸とも言って、血中の二酸化炭素濃度が減少してだな…
「いや、そんな難しい事は分かんねぇっす」
あっそう……ま、要は吐いた息をもう一回吸わせばいいって訳よ」
「どうぞ」
徐々に落ち着きを取り戻していく渡辺に温かいココアを差し出す東山。
「……俺には?」
「……すぐに」
「さてと、渡辺さん。辛い事を思い出すかも知れないけどね、教えてくれないかな。何があったのかを。……指原さんと君自身の為にもさ」
「はい……」
渡辺がぽつりぽつりと事件当日の様子を語り始めた。
「…なるほどね。つまり、君より前には高橋さんと大島さんが来てた訳だ」
渡辺が小さく頷き、目の前のカップをギュッと強く握った。
「……そうだ!あのさ、クッキーの写真とかって残ってないかな?」
南が東山に淹れさせたコーヒーを飲みながら質問した。
「それなら携帯に何枚かありますけど……」
「東山!彼…」
「鞄っす!」
東山が南の指示を見越してなのか、白のハンドバッグを持っていた。
「えっと……携帯は?」
「そのまま渡せ!」
鞄の中を物色しようとした東山を諫め鞄を受け取り、渡辺に渡した。
「その写真見せてくれる?」
「あっ、はい」
容疑者ならいざ知らず、重要参考人のしかも、若い女性の荷物や携帯を勝手に触るのに抵抗を感じた南は規律違反かも知らないが直接彼女に渡した。
「えっと……これです」