03
「課長!渡辺さん何処ですか?」
刑事課に戻るや否や課長の席に詰め寄り南が問いかけた。
「渡辺さんってどの渡辺さんだい?」
「重要参考人の渡辺さんですよ!渡辺麻友さん!」
「ぎゃーぎゃー騒ぐなって南!その嬢ちゃんなら第二取調室だ」
急な質問に狼狽する猪瀬の横から顔をしかめた蝶野が指を指し南に答えた。
「あざすっ」
「あっでも今は本庁の、って行っちゃったよ。……どういうことだい東山君?めちゃくちゃ元気じゃないか」
「あっれ〜、おかしいな。凹んでると思ったんすけどね」
蝶野に礼を言い、猪瀬の言葉も聞かずに取調室に向かう南に東山も首を捻った。
「東山〜!」
「あっはい!ただいま」
南に手招きされ、東山も後を追った。
「失礼しま〜す」
コックをし中に入れば、先ほど会議室のスクリーンで見た少女と彼女を連れて来た本庁の刑事がいた。
「所轄〜、何の用だ〜?」
火の点いた煙草を咥えたままの刑事が立ち上がり南に詰め寄って来たが、南はその口元から煙草を摘まみ上げ自分の携帯灰皿へ落とした。
「何しやがる!」
「いえいえ、アイドルの娘の前で煙草は無いんじゃないですかね〜」
激昂する男を南が宥めつつ椅子に座った。
「アイドルだぁ〜?はっ、容疑者の前で煙草を吸って何が悪い?」
「容疑者?おかしいな〜、重要参考人ってさっきの会議で聞いたんですけどね。そうだよね東山君?」
「えっ、あっはい!」
笑みを浮かべ東山にも話を振る。東山も咄嗟の事に肯定してしまう。
「いいんですか?勝手に容疑者にしちゃって?」
「……一体なんの用だ」
苦虫を噛み潰した様な顔で南の目を見ずに言った。
「北嶺警視正が呼んでましたよ。捜査の割り振りをするって。行った方が良くないですか?」
「いいか所轄!北嶺警視正に懇意にしてもらってるようだが調子に乗るなよ」
半分は嘘だったが男はぶつぶつ言いながら部屋から去って行った。
「さっきの人やたらと先輩を目の敵にしてますよね?」
「あぁ、気に入らないんでしょうよ。俺が北嶺さんと親しいのがさ」
「嫉妬っすか!」
「多分ね。小っちゃいね〜男の嫉妬とか」
「あの……」
東山と南がコソコソ話していると椅子に座る少女が声を上げた。
「あ!ごめんごめん。えっと……渡辺さん。渡辺麻友さんだよね?」
「……はい」
「ごめんね。嫌な思いさせてしまって」
疲れているのか写真で見るよりも顔色の悪い彼女に先程の非礼を詫びる。
「いえ……。あの」
「ん?」
「刑事さんは一緒に行かなくていいんですか?」
「いいのいいの。……えっと、選抜組とそうじゃない組って感じかな」
彼女たちに喩えて笑いかけながら答えると、渡辺の口角も少し上がった気がした。
「それじゃあ、刑事さんは選抜じゃないんですか?」
「うん。俺たちはね……選挙の圏外かな。圏外」
それから、渡辺も徐々に笑顔になっていき南も本題を切り出した。
「渡辺さん。少し話を聞きたいんだけど……。いいかな?」
その一言で渡辺の穏やかだった表情が一変した。