第一章
04
 顔を上げはしたが、その顔にはひきつった笑顔が貼り付いていた。


「お〜、一緒だね〜」

 南がその場の空気感には相応しくない声をあげた。言葉の意味が分からず、きょとんとする高橋に

「名前だよ名前。君、みなみちゃんって言うんだよね?俺も南だからさ、名字だけど」

「あ〜、本当ですね」

 南の的外れとも取れる発言に高橋の顔にも僅かに笑みが浮かぶ。

 その後も、他愛のない世間話が続く、調書も取らずに…


「…んじゃ、そろそろ話、聴かせてもらっていいかな?」


「…あの南さん、本当に麻友が指原を……」

 トーンも口調も同じだが何かが変わった事に肌で感じ取った高橋が南に尋ねる。歯切れの悪い言葉なのは、高橋自身も仲間を信じているからだろう。

「俺たちもそうじゃないと信じたいよ。…だからね、辛いとは思うけど教えてくれないかな?その…指原さんの為にも彼女の為にも何があったのか」

 事件の概要も解らず、名前を言われてもピンと来なかった南だが、先程の少女が"麻友"というのだろうと思い言葉をかけた。

「……はい」

 涙を流し応える高橋。最初の警官とは違う対応をみせる南に対しての嬉し涙だろう…


 その一部始終を扉近くで見ていた西尾は(相変わらず相手の懐に入るのが巧い…)と思っていた。

 捜査において、如何にして話を聞き出せるかが重要になると言っても過言ではない。警察が相手となるとどんな人物でも構えてしまい正確な情報が得られない事も多々ある。

 その点、南は相手と同じ立場、同じ目線となり話す事で聞き込み等でも有益な証言を得る事に特化している。

「それじゃあ、みなみちゃんの目から見た今日の出来事を教えてくれる?」

「私のですか?」

「そうそう。憶えてるだけでいいからさ」

「はい…」

「とりあえず、ここに到着した時の事から話してくれる?」

「はい、ええっと……」

 自分の記憶を引き出す高橋を、南は優しくも鋭い眼差しで見ていた。




絹革音扇 ( 2013/11/08(金) 23:35 )