第23花ーペンタス
「今は、理々杏って呼んでほしいな…。普段は小百合でいいから、懐かしい話してるんだし、少しは浸らせて?」
私の心の奥底に眠る欲望。
もっと菊野君のことを知りたい。
彼と濃密な時間を過ごしたい。
一緒の時間を過ごせる日常ですでに満足しているのに、それ以上に満たされることが目の前に転がっているかもしれない。そう思ってしまったら私の理性が抑え込む間もなく欲望が、本能が動いていた。
「分かったよ、理々杏」
もっと。
もっと…。
もっと彼に名前を呼ばれたい。
私が彼に想いを寄せ始めた頃のことを思い出すと体が熱くなる。
けれどそれはまだまだ子供だった頃。今はこの先にだってまだまだ進める。
もっと。
もっと…。
もっと彼に想われたい。
「ね、ちょっと飲みすぎちゃったかも」
もっと。
もっと…。
もっと彼に触れたい。
隣で3本目の缶酎ハイをあおっている菊野君の肩に頭をのせる。
「大丈夫?理々杏。横になる?」
「んーん、このままがいい」
私は頭を彼の肩に乗せたまま上目遣いで、小さな声で言う。
あざとい女だと我ながら思う。けれど、どんな女だって想う人が目の前にいれば一生懸命になるのは当たり前のこと。私だけがそうなのではないと言い聞かせて。
彼は断らないから。それを知って私は言っている。少しずつ欲張っていく。
「それ美味しい?ちょっと欲しいなぁ」
「理々杏、お酒入ると少しわがままになるんだね」
彼が少し笑って口をつけた缶酎ハイを差し出してくる。それを私は両手で受け取って少し飲む。そっと彼に缶を戻す。内心はすごくドキドキ。
間接キス…。
戻した缶を彼が口に運ぶ。彼が缶に口をつけるところまで凝視してしまう。
彼のその唇に触れたい。欲張りすぎかもしれない。けれど止まらない。
また彼を上目遣いで見上げる。そっと、ゆっくりと目をつぶる。彼が触れてくれるのを待って。
目をつぶってからどれくらいの時間が経ったか。永遠とも思える時間の後、柔らかな感触が私の唇に触れる。ゆっくりと目を開けると、彼の顔がすぐ近くにあった。
まだまだ欲張ってしまう。
「ねぇ、もっと、して?」