二束目
第17花ーランタナ
「ただいま」
最近、もう見慣れてしまったドアを開けてアパートの室内に入った。

「おかえり、春樹君」
そう言って迎えてくれたのは先輩だった。
「ただいま、先輩」


あれから自宅には着替えを取りに行くくらいで帰ることはほとんどなくなった。事実上、先輩の家に居候している状態だ。申し訳ないと思う反面、先輩が「1人にしておけないからうちに帰ってきてね?」と言うからという理由でなんとかその罪悪感から目をそらしている。


先輩はすごく家庭的な人だった。料理も上手だし、家事もくるくるとこなす。半同棲状態になってから気づいたことだった。対して、俺は先輩に何もしてあげられていない…。



「春樹君はここにいてくれるだけでいいんだよ」
先輩が俺の気持ちを察したかのように、ぼそっと呟いたのがソファーに腰かけてスマホをいじっていた俺の耳に届いた。

「先輩?」
「春樹君のことだからそんなことで悩んでそうだな、と思って」
「先輩には隠し事ができなさそうですね」

先輩は「んー」と少し考えてから口を開いた。
「別に私がそういうことに聡いっていうこともあるかもだけど…。隠し事っていうのは、その人に隠す気があれば隠し事になるけど隠す気が無ければ隠し事じゃないんだよ?」


そう言って先輩はソファーに座る俺を後ろから抱き締めて話を続けた。


「だから、隠そうと思ってないでただ話してないことだってあるだろうけどそんなこと気にしなくていいから。私だって、春樹君に話してないことだってたくさんあるし。そのままでも私は春樹君を受け入れてあげるし、もし春樹君もそれでいいなら…」


「先輩?」
先輩が何か核心に触れるような気がしたから、なんとなく途中で話を遮ってしまった。
この先を聞いてはいけない気がした。


「あ、ごめんね。全然気にしなくていいから。けど、春樹君が私に抱いている感情と私が春樹君に抱いている感情は変わってきているかもしれないね」

■筆者メッセージ
どういう風に展開していこうか、そんなことを考えていると時間があっという間に過ぎてしまいます。きっと私自身がこの作品を好きなんでしょうね。

どうもHikaです。予定ではあと3話で二束目が終了の予定です。多少のストックを抱えながらマイペースに頑張っています。これからもよろしくお願いします。

では、また近いうちに。
Hika ( 2019/08/22(木) 07:45 )