第5花ーリンゴ
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始まりは去年の初夏だった。まだこのバイトを始めて2ヶ月かそこらのバイト中のことだった。
「ねぇ、春樹君この後時間ある?」
皿を拭いていた俺に急に声をかけてきた梅澤先輩。
「ありますけどどうかしました?」
「とりあえず、バイト終わったらね」
手をひらひらさせながら先輩は休憩を取りに裏へと入っていった。大事な用だろうか?どっちにしても分からないので閉店時間が待ち遠しかった。
「で、先輩。一応、この後は空いてますけど何か用ですか?」
今日のバイトを終えて一緒に外に出た先輩に聞いた。閉店時間まで30分残っていたが客足も途絶えたのでかりんさんが店を閉めた。チェーン店では絶対にできない所業だ。
先輩が俺の顔を覗き込みながら言った。
「とりあえず、ウチ行こ」
先輩の目はどこか挑戦的で色気を帯びていた。…気がした。
先輩の後をついてやってきたのは大学から歩いて5分くらいの少し新しめのアパートだった。先輩は何事もなかったかのように外の階段をすたすたと上がり、部屋の鍵を開けて中へと入っていった。と思ったらまたドアが開いてその隙間から先輩はひょこっと顔を出して言った。
「ここまで来ておいて入らないの?」
「いや、そのまま入っていいのか迷ってただけっすよ」
「そう?ならいいけど早く入ってね」
先輩の部屋は狭かったけどモノトーンで統一された家具が並び、掃除がしっかりと行き届いていた。俺が好きなタイプの部屋だ。無機質にも感じる人もいるだろうが無駄が一切ないスタイリッシュな部屋だ。
「あんまり部屋じろじろ見まわさないの」
「あぁ、すんません。んで、何の用ですか?力仕事とかですか?」
そう言ってから少し間が空いた。
「当たらずとも遠からず、かな。
ねぇ、春樹君。私を抱いて」