第11話
次の日。優暉は一睡することもできずに夜を明かした。今にも雨が降りそうな曇天だった。優暉は2回目となる未央奈の墓参りに行くために電車に乗り込む。その墓地は最寄り駅から2つ先の駅。そこから5分も歩けばもう敷地だ。
未央奈の墓の前で3年前のあの日を思い出す。
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『第一ビルの屋上で待ってるから来て』そうメールが来たのは確か17時頃だった。俺はすぐにその雑居ビルに向かった。屋上に着くと、今にも飛び降りそうな未央奈がそこに居た。「未央奈、やめろ!」俺はそう叫んで未央奈の許へ走り寄った。
「来てくれたんだ。ありがとう」「当たり前だよ。そんなことより早くこっちに来いよ、未央奈」「それはね、できないんだ」「できないってどういうことだよ!」「私はね、今日自分で死ぬの」「何でだよ!何で死ななきゃならないんだよ」「私がそう決めたから」俺は何も言い返せなかった。
「でもね、怖いんだ。だから優暉を呼んだ。優暉に私の背中を押してもらうために」「そんなことするわけねぇだろ!」「するんだよ優暉は。私がそうさせるから」「そうさせるって…どうやって」少しの間が空いた。
「元々、私は変だった。死を怖いなんて思ったことは無かった。それどころか、死んでみたいとさえ思うようになった。でも、死んだらそれで終わり。だから、私はやりたいことを書き出した」俺の中で何かが繋がった気がした。
「おい…それって…」「そうだよ。死ぬまでにやりたいことリストだよ。これを見た優暉は『全部消化して、次またやりたいこと探して楽しく生きていこう』って言ってくれたよね。嬉しかった。だって、その分私の死期が近づくから。最初から8割を消化したら死のうって決めてたから」俺は愕然とした。俺が未央奈の死期を早めていた…!?
「優暉は、絶好のターゲットだった」俺は耳を疑った。「優暉みたいに、クラスであまり目立たなくて、自己犠牲の精神が強くて。私があのリストを見せたら止めるような人じゃダメだから。自分を犠牲にして私のしたいことをさせてくれる人が必要だった」俺は思い出した。あのリストの一番上の、『優暉君と付き合う』の『優暉』の文字だけが違うペンで書かれていたことを。
「じゃ、じゃあ…俺のことなんか…」「そうだよ。これっぽっちも好きじゃないよ。今まで自分を犠牲にしてきたのに惨めだね。捨てられるってどういう気持ち?あはははは」自分では堪えきることのできない怒りが体に満ちているのを感じた。これ以上、未央奈の話を聞いてはだめだと俺の第六感が告げている。
「自己犠牲の精神が崇高だと思ってる偽善者ってこれだから…」この時、俺の中で何かがショートした。俺は気づくと未央奈が立っていた場所から彼女を突き落としていた。
未央奈の口が動いた。「人殺し」そう言われた気がした。