01 だらだらお付き合い。
「でも、信じらんないな」
「何がっすか?」
「松岡とアタシが付き合ってるなんてさ。だって、信じられないんだもん」
「もう付き合って4年なんすからさ、いい加減に俺を信用してくださいよ」
「やだ。松岡だから」
付き合い始めても、まりやは雅史を名前で呼んでくれない。ずっと名字のまま。
一つ年上の素敵な恋人。けれども、いつまでも名前で呼んでくれない。雅史にとっては不満だった。
自分はまりやさんと呼んでるのに、まりやさんは雅史の名前を呼んでくれさえしない。久しぶりに飲みに来たのに、食事には目もくれずずっと言い争っていた。
「あのね」
「はい、なんすか」
「アタシ、年下と付き合ったことないから名前で呼ぶのなんか照れちゃうの」
「はい?」
「何度も言わせないでよ。だから、年下の男の人を名前で呼ぶのは照れるの」
「そんな事言ったって…まりやさんって俺は呼んでるんすから、別にいいっすよ。名前で呼ぶのは普通ですし」
「アタシはありきたりなのは嫌なの。他とは違うようなのが好きなの。だから、呼び方もこのままでいい。この話は終わり。ほら、今日は沢山飲もうよ。松岡の家に泊まらせて。どうせ1人で寂しいんだろうし」
「翔伍はもう富山に帰りましたけど、別に俺は寂しくもなんともないっすよ。前に泊まりに来た時なんて、勝手に作って余った肉じゃがとかを隣に配るのやめてくださいよ」
「はいはい、強がりはいいから」
まりやと付き合った雅史。もうかれこれ付き合って4年。けれど、一緒にいる時間が長くて結婚の二文字すら言い出せてない。それに、指輪だって。プレゼントできてない。
「お刺身なくなっちゃった。松岡、サーモンのお刺身と唐揚げ追加で注文して」
「分かりましたよ。明日は休みですけど、飲むのもほどほどにしてくださいね」
「はーい」
立場は完全にまりやが上。姉さん気質のまりやはこれが普通だと認識している。少なくとも雅史は、そうではないと思っている。
「松岡、ビールもいい?」
「分かりましたから。大丈夫っす」
会社の様子とほぼ変わりのない2人。まりやは29歳、雅史は28歳になってしまった。
「そろそろ考えなきゃな」
皿に載った唐揚げをつまみながら、雅史はずっとまりやとの今後について考えていた。