04 課長の自宅で。
「ただいま、麻衣」
「おかえりなさい」
麻衣と立花に呼ばれた女性はTシャツにヒラヒラスカートにエプロン姿で玄関にやってきた。端正な顔立ちで綺麗な大人の女性。全員が目をぱちくりさせて何度も立花と麻衣を交互に見る。
「じゃあ、上がってください」
外からのイメージでも大きかったのに、中に入ると天井は高く広々としていた。オープンキッチンで麻衣が出来上がった料理をテーブルの上に並べていく。
皆が部屋の中のものを興味深く探っていってるが、雅史だけはキッチンへ向かって麻衣のもとに向かう。
「あの、すみません」
「はい。何でしょう?」
「あの、白石さんですよね?俺を覚えてますか。松岡雅史です」
「えーっと、あ。雅史くん?」
「麻衣って名前を課長呼ばれて、ようやく一致した。結婚したんだね」
「彼は結婚する気はもうほとんどなかったんだけど、私から猛アプローチしてね。ようやく結婚してくれたの。もうすぐ結婚3年目」
「それは良かった。実はさ、俺も今年の冬に結婚する予定なんだよね」
「もしかして、あの幼なじみの子?」
「いや、椅子に座ってる人。咲良っていうんだけど、もうお腹の中にいるんだ。子供」
「ほんとに?おめでとう。雅史くんも幸せそうで良かった。私もね、あの人と結婚して良かったと思う。だって、優しすぎるんだもん」
「あぁ、なるほど。分かる気がする」
それから、少しだけ麻衣と話した。まだ2人が付き合う前、麻衣が亡くなった母親から就職祝いとして貰ったネックレスをなくしたとき、もう見つからないと諦めていた。そんなとき立花は強い雨が降る中、三時間かけて家の歩道の隅に落ちていたネックレスを見つけ出した。
「簡単に諦めないでください。諦めるなんてあなたらしくありませんから」
怒りもせず、立花はニコリと笑った。雨も強まった頃になんとか見つけ出したが、家に帰った直後に立花は倒れた。
高熱を出して寝込んでしまったのだ。
「雅史くんがあの人の部下で良かった。雅史くんのこと話す時、すごく嬉しそうだもん。自分の子供みたいに可愛いんだって」
「へ、へぇ。なんか複雑」
苦笑いしかできない。
こんな夫婦の形もあるんだ、と改めて感じることも出来た。立花の性格に麻衣はなんの不満もないようだった。
「麻衣、ちょっといいかな?」
「はーい。すぐ行きます」
2階で何か探し物をしている立花は麻衣を呼ぶ。それに応じるように返事をした後に、麻衣は2階に上がっていった。自分だけじゃなくて、自分の身近な人の幸せを嬉しく思った。
大切な人とずっと一緒にいることが出来るような仲でありたいと思った。
子供が産まれても、ずっと。
咲良と仲睦まじい夫婦でありたい。