03 好きなものに理由なんてない。
俺が幼い頃によく聞いていたお袋の口癖。
お袋と親父は幼い時は近所でも有名なおしどり夫婦。今は想像も出来ないけど。
不思議と今でも覚えている。
「好きなものに理由なんてないのよ」
今なら分かるかも知らない。
大人になった俺なら分かる。
好きなものも人も同じだ。
誰かにそばにいて欲しい。
他の人は笑うかもしれないけど、俺は赤い糸を信じてる。これは真剣な話。
人を好きになることなんて理由はいくらでもある。一目惚れ、交際、お見合い。人を好きになることは覚悟も必要だ。
いつか、それを失うかも分からない。
短い一生の中でそうなることを怯えている。
それを失って残された者は、自分を一番に理解してくれた大切な人を恋しく思う。自分も後を追おうとする人だっている。
俺は、たとえ失ったとしてもその人の分まで生きたいと思う。死にたくなっても、俺は死んでまで会おうとは思わない。たぶん、あの人のことだから俺は怒られる。
ようやく足を止めて、電話で呼び出した君のもとへ歩く。ベンチに座って、キョロキョロと俺を探す君。少し驚かそうと、ゆっくりと後ろから近づいて肩にポンっと手を置く。
びくんっと反応して、芝生に足をつく。怒ったような表情で俺を睨みつける。
「ごめんなさい、反省してます」
「わかればよろしい」
「で、話って?」
暗い公園で向かい合う。面と面だからいつも以上に緊張する。覚悟を決めて、口を開いた。
「俺はあなたのことが好きです。良かったら俺と付き合ってください」