遠恋









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第4章
11 I don't know
落ち着け、落ち着くんだ。
すっきりすればちゃんと思い出せる。


シャワーを浴びながら暗示を続ける。
まりやさんは食事の準備をしてくれてる。


「俺はしてない、絶対」


そう思いたいけど、今回は無理だ。
あの状況に、あの格好。


ベッドで何も着てないまま寝ていた状況なんて、1つの答えにたどり着く。


敢えてもう言わない。
分かりきっていることだから。


くそ、こうなるなんて。
俺は何してんだ。


花火大会で俺が李奈に告白する。
そう心に決めたはずなのに。


俺の心の中で揺れ動く。
李奈と咲良とまりやさん。


まりやさん。
最初は素っ気ない態度だったのに、2人で飲んでから急に縮まった距離。そこからまりやさんの大人っぽさだったり、優しさとかの魅力がよく分かるぐらいにまでなった。そして、昨日の出来事。本当に俺はやったのか。どちらにせよ、まりやさんは本気で俺のことを。


次に咲良。
一人暮らしで不安なはずなのに、李奈から「再会しなきゃ良かった」と言われて失望感に打ちのめされて雨に濡れた俺を優しく抱きしめてくれた。李奈が来るまでの1年間、ずっと俺を仕事でもプライベートでも支えてくれた。


そして李奈。
お互いに幼い頃からよく知っている間柄。李奈が東京に来た最初ぐらいは李奈ともう会いたくないと思ったけれど、2人で久々に笑ったあの日の夜を忘れたことはない。まだ、俺は李奈のことが好きなんだ。


それは絶対に変わらない。
そう言ったら嘘になるかもしれない。


分からない。
本当の気持ちってなんだろう。


俺には分からない。
本当に李奈だけなのか。


咲良や、まりやさんのことも…


「松岡、長すぎ。ご飯できたよ」


浴場の外からまりやさんの声。
慌てて止めて、着替える。


浴場から出ると、まりやさんが入口で腕を組んで待っていた。片手にはフライパン。


「遅い、バカ」


軽くフライパンで叩かれる。
鈍い痛みが頭に響く。


右手で頭を抑えながらまりやさんの後について行くと、テーブルに色とりどりの料理が並べられている。


「はい、簡単な料理だけど」


目玉焼きの乗ったトースト。それから、コップの中には緑色の液体が入っている。


「なんすか、これ」


「グリーンスムージーよ」


「なんか、凄いっすね。これ」


「文句言わない。ほら食べて」


スムージーはあまり好きじゃない。
何故かは分からないけどもともと野菜ジュースも嫌いだったし、仕方ない。


でも、これは違った。
丁度いいくらいで美味しかった。


まりやさんの料理は美味しかった。
文句の一言も出ないくらいに。


「松岡に喜んでもらえて、良かった」


やっぱり、まりやさんには勝てない。

ガブリュー ( 2015/12/30(水) 22:38 )