11 翔伍の本心。
俺と李奈と雅史は幼なじみ。
ほんとに長い付き合いだ。
雅史とは親友。
李奈と俺はコンビ。
夫婦漫才、だなんて言われてた。
大学は2人と違ったけど、俺はあいつらの恋仲をずっと見守ってきた。お互いが意識し始めた中学生から、現在に至るまで。
俺はいつも見てるだけ。
李奈は雅史のことが好き。
それが悔しかった。
あいつには、勉強もスポーツも俺が1枚上手だったのに。李奈は俺よりも雅史。
3人でいるのに、いつも2人との間に1枚の壁のような俺の気持ちが支配していた。
雅史と李奈が付き合い始めた時、雅史は俺に一番に報告してくれた。なんで俺が最初なのか訊いたら、あいつはこう言った。
「翔伍が親友だからに決まってるだろ」
その言葉は嬉しかった。雅史が俺のことを親友だと思っていることが、何よりも嬉しかった。でも、俺はそれと引き換えに李奈が雅史のものになって、近い場所にいた李奈が遠くへ離れてしまったような気持ちだった。
大学を卒業する前に、雅史から李奈と別れたって連絡があった。その時の雅史はひどく落胆していて、ショックを隠しきれていなかった。
雅史には申し訳ないけれど、俺は嬉しかった。李奈が自分の目の前にまで戻ってきてくれたような気がしたからだ。ようやく、俺の目の前に李奈が戻ってきてくれたのだ。
大学を卒業してから、李奈は実家の手伝い。本格的にお店を継ぐための修行。俺も親父の元で肉屋を継ぐための修行。
李奈の頑張っている姿を見てきた。
お客さんに笑顔で接待していて、どんなに辛くても、弱音を吐かない李奈をの姿を東京に行った雅史よりも目の前で李奈のそんな姿を見てきた。
雅史が東京に行った最初の一年目に、李奈を花火大会に誘った。でも、答えはノーだった。
「約束してる人がいるの」
誰か言われなくてもだいたい分かっていた。雅史だ。李奈は雅史との待ち合わせ場所にしていた李奈の家から少し離れた場所にある松の木の下で待っていた。
雅史はやってくる気配はない。花火が始まっても、李奈は雅史を待ち続けた。終わって、人が多く帰る人ごみの中で必死に雅史の姿を探していた。雅史がいないと分かると、李奈は落ち込んで帰っていった。
雅史を初めて蔑んだ。今まで、雅史を約束を簡単に破るような奴じゃないと思ってた。結局、雅史は現れることは無かった。今度は俺にチャンスが巡ってきたんだ。だったら、今度はあいつよりも俺が李奈を幸せにする。
「よっ、李奈」
「…翔伍」
「近くに行きつけの店があるんだけど、良かったら一緒にどう?」
「あ…また今度にするよ」
俺を通り過ぎようとする李奈の手を強く掴んで、引き止める。
「行こうぜ、2人で久々にさ。李奈と俺の最強コンビの再結成記念だぜ」
李奈の掴んだ腕を離して、李奈の肩に優しく手を置いて店まで誘導した。