10 なみだ。
翔伍とは沢山話した。富山にいた頃に、3人で過ごした学生時代。雅史のお茶目なエピソード、翔伍の家族の話。途中からお酒も入って、笑いが絶えない夕食だった。
「翔伍は相変わらずだね」
「だろ?李奈も変わんねーな」
缶ビールを口につけて、翔伍はにんまりしている。私もグラスに口をつけながら翔伍のその表情を見る。
「雅史と李奈が付き合ったときなんて、めちゃくちゃびっくりしたよ。お前らよく2人で一緒にいたけど、こうなるとは思わなかった。お前ら、結構お似合いだったぜ」
翔伍は別れたことを知ってる。でも、そんなことは気にせずに私や雅史に接している。本当に私にとっては一番の雅史の次に信頼できる男友達。
「あ、あれ?なんでだろ…」
涙がテーブルに落ちる。悲しくなんてないのに、ぽろぽろ涙がこぼれる。
「ご、ごめん。そんなつもりじゃ」
翔伍がそばに寄ってくる。手で顔を覆って涙を隠そうとしたも、もう遅かった。
「ごめん、李奈」
翔伍のTシャツに顔を埋めていた。翔伍が私を抱きしめていた。ぎこちない左手で私の髪をそっと撫でている。
「俺、ズルいよな。お前らが別れてさ、少しだけ嬉しかった。お前らが妬ましかったんだ。だから、今度はあいつよりも俺を選んでくれるかもしれない。だから俺は、李奈のことをずっと、ずっと前から」
「だめ、翔伍。言っちゃだめ…」
翔伍の気持ちに応えられない。私はまだ雅史のことが好きだから。翔伍が私のことを好いてくれるのは嬉しいけど、でも。
「そうだよな、ごめん。お前はあいつのことで泣いてんだよな。ただの幼なじみであいつに敵わない俺が今更何言ってんだよな」
翔伍の身体が離れる。翔伍の表情と目は見たことがないくらい悲しい目をしていた。
「俺は李奈のことが好き、なんだ」
翔伍がつぶやくように言った。
「ほんとは、好きだとか付き合うとかそんな言葉じゃ表せない。でも、お前を思う気持ちは誰にも負けない。雅史と俺の関係がぶっ壊れたっていい。最後にお前だけ残れば、俺はそれでも構わない」
翔伍の言葉が終わったあとに、私は荷物を持って家を飛び出した。涙を堪えながら、荷物を持って翔伍と目を合わせることなく雅史の家をあとにした。
「ごめん。ごめんね、翔伍…」