08 翔伍。
なんでだろう。
さっきから寂しくてたまらない。
あっという間だった今日。
雅史と2人きりだった数時間。
付き合ってた頃みたいな。
あいつの不器用な笑顔が見れた。
夕日が沈んでいく。
1人でベンチに座って周りが暁に染まっていくのをただ見続けた。
別れた2年前と今。
雅史は東京の人になってたと思ってたけど、そんなことはなくて、雅史は雅史のいいところをまだ残したままだった。
優しくて、前とは違ってほんの少しだけ社交的な性格になっていた。
翔伍も、雅史の家で居候。
怒らないのが雅史らしい。
夏の風に髪がなびく。
バッグの中のスマホから着信音が流れた。
「よっ、李奈!元気?」
「翔伍、元気そうだね」
「暇を持て余した貴族、とか言っとくか」
「珍しいね。翔伍が私に電話なんて」
「さっき、雅史から連絡あってさ。晩メシ作ったのに雅史が晩メシいらないとか言ってよ。2人分あるし、良かったらうちで食わねぇ?」
「松田くんとかは?」
「今日は大学で地獄の稽古の日だから無理ですってメール来た。余らせるのもなんだしさ。李奈、頼む」
「うーん、いいよ。家に荷物置いてから、そっちでご飯ごちそうになろっかな」
「そう来なくっちゃ。待ってるぜ」
電話が終わった。雅史と私をよく知る唯一の人物の翔伍。話してて楽しいし、表情が豊かで見てても楽しい。昔からいじられキャラで、高校のクラスで無茶ぶりをされても、それに答えて翔伍は素直で優しくて皆を笑わせた。
それに、翔伍は信念を持っていた。
「誰かを幸せにしたい」、それを話してくれた時、普段のキャラとは違って面白みのある喋り方じゃなくて真剣な目をしていた。
そんな翔伍が友達として好きだった。
雅史とはまた違う一面を見せる翔伍。
翔伍とご飯なんてどんな感じだろう。
またあの時みたいに楽しいのかな。
「早く行かなきゃな」
約束した時間に間に合うように、家に向けてゆっくりと歩を進めた。