07 最低だよ、俺。
本棚選びが終わった。あっさり決まった。
李奈が理想としていた本棚があったらしく、即座にお買い上げ。休みの日に朝早くから人を呼び出しといてもう用事が終わった。
「ったく、こうなんのかよ」
李奈が他にいくつか買うものがあったので、俺はその荷物を持たされていた。地味に重い、一体なに買ったんだよ。
「さぁ、焼肉だね」
「食品偽造レベルだろ」
今から、李奈の家でハンバーグ。
どうせ、夕飯の手間も省けるし翔伍も適当になんか食っとけってメールしとけばいいから、たまにはいいか。
李奈の家に着く前に、スマホが着信を知らせる。画面には[咲良]と表示されている。
「ごめん、ちょっと電話」
画面をタップして、応答する。
荷物を持ってない左手で左耳にゆっくりとスマホを当てる。
「あ、雅史。今大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。なんかあった?」
「あのさ、明日の件で打ち合わせもう一回しておきたいなって思って。うちでご飯作ってあげるから、駄目かな?」
「今、どこにいるの?」
「うん?今は家の近くだけど」
「じゃあ、今からそっち行くから」
「えっ、ちょっ…」
電話が切れた。李奈には言えない。
今から李奈の家でハンバーグをごちそうになるのに、咲良が今から来るなんてなんてことだ。
「雅史?」
「ごめん!ちょっと、今から咲良ともう一回打ち合わせしなきゃいけなくなった。夕飯ごちそうになるのさ、また今度でもいい?」
手を合わせて必死に謝罪する。
一瞬、李奈は少し悲しそうな顔になったが、すぐに戻って「仕方ないよね」と漏らす。
「じゃあ、また今度ね」
「あぁ、ごめん」
俺に背を向けて、李奈は一人寂しく行ってしまった。最低だ、家まで送っていけばいいのに。一歩も動けない。咲良との打ち合わせを理由に李奈に悲しい思いをさせてしまった。
「まさふみー」
10分後、白のロングスカートに女性がプリントされているTシャツ姿の咲良が買い物袋を提げてやって来た。
「お待たせ、ごめんね。休みなのに」
「いや、別に大丈夫」
「じゃあ、行こっ」
少し多めの買い物袋を、何も言わずに咲良の手から取って俺は左手に買い物袋を持つ。
「今日は、ハンバーグの予定なの。雅史ってお肉とかがっつりメニュー好きそうだし」
ハンバーグ。李奈に作ってもらう予定だったハンバーグを咲良も考えていた。同じハンバーグをごちそうになるにしても、俺の頭の中は罪悪感が支配していく。
「楽しみにしててね?」
咲良の笑顔を見る一方で、俺の頭の中には一人寂しくとぼとぼと帰っていく李奈の姿が鮮明に写し出されていた。
表情が暗くて、悲しそうに地面を見つめている李奈の姿を。
「どうしたの、雅史?」
「…なんでもない」
俺は最低だ、セコい人間だ。